
先生、魚がどんどん減っているって聞いたことがあるんですが、どうすれば増やせるんですか?

それが『増殖』という方法です。自然の中で魚が増えるように工夫することを指します。
例えば、魚が産卵しやすい環境を作ったり、捕りすぎないようにルールを決めたり、育てた魚を放流したりすることで、漁業を守っていくんですよ。
増殖とは?

魚がたくさん獲れるようにするための方法のひとつが「増殖」です。これは、川や海で減ってしまった魚を「回復させる・維持する・増やす」ための取り組みです。
養殖と違い、自然の中で魚の数を増やすことを目的としています。
増殖は、江戸時代の1763年に新潟県の村上藩が「種川制度」という仕組みを作ったのが始まりとされています。

この制度では、サケやマスなどの川に戻ってくる魚が産卵しやすいように
保護する活動が行われていました。
増殖の方法
増殖には、主に次の3つの方法があります。
- 漁業管理(繁殖保護) 魚が育ちやすいようにルールを作ること。
- 漁場改善(環境改善) 魚が住みやすい環境を作ること。
- 放流(資源補強) 人が育てた魚を自然に戻すこと。 漁業管理(繁殖保護)
魚の数を増やすために、漁獲(魚を獲ること)にルールを作ります。
漁業管理(繁殖保護)

例えば、
禁漁期(特定の時期は魚を獲ってはいけない)を設定する。
魚のサイズの制限(まだ成長していない小さい魚は獲らない)を決める。
また、国や地域ごとにTAC(漁獲可能量)制度やTEC(漁獲努力量)制度を取り入れ、魚が増えるように管理しています。
漁場改善(環境改善)

魚が住みやすく、繁殖しやすい環境を整えることも大切です。
産卵場や育成場を作る。
海藻が育ちやすい場所(藻場)を作る。
海に石や人工の魚礁(魚が隠れられる場所)を設置する。
魚が川を上るのを助けるため、魚道を作る。
田んぼや上流に魚が行きやすいようにする。
山に木を植えて、川にきれいな水や栄養が流れるようにする。
移植・放流(資源補強)
魚の卵から育てた稚魚(ちぎょ)を放流して、魚の数を増やします。これを「栽培漁業」と言い、日本では1963年から始まりました。
現在では80種類以上の魚が放流の対象となっています。
栽培漁業において必要なこと
- どの魚を増やすべきか?
沿岸にいるサケ、ヒラメ、マダイなどは増殖の効果が大きい。
マグロのように遠くへ移動する魚は、放流しても戻らないため効果が分かりにくい。 - 親魚の養成
放流する魚の遺伝子の多様性を守ることが大切。
親魚を増やすことで、遺伝的なバランスを保つが、コストもかかります。 - 種苗(しゅびょう)の育成
天然種苗(自然の中で生まれた稚魚を集めて育てる)。
人工種苗(人の手で受精卵を孵化させて育てる)。
海ではほとんど天然種苗を使うが、マダイやトラフグは人工種苗も増えている。
川ではフナやワカサギ、ティラピアなど人工種苗が多いです。
ウナギは今も天然種苗のみですが。完全養殖に向けた研究が進んでいる。
中間育成

放流する魚が大きくなるまで育てることを「中間育成」と言います。
具体的には、稚魚から5〜10cmくらいの未成魚にまで育てます。
中間育成の課題:「放流魚の減耗」

放流した稚魚の多くは、最初のうちに数が大きく減ってしまいます。
その原因は2つあります。
- 放流した魚が餌が取れずに飢餓する
- 他の大型の魚に食べられる
要は育成していた環境に慣れていた個体は野生環境に耐えられなかったということになりますね。
特に小さい個体はエサの食べ方や外敵からの逃げ方や隠れ方に慣れていないので死んでしまいやすいですね。
ちなみに個体数を調べる関係上、放流した魚が別の遠い場所へと回遊してしまったために全体の数が減少してしまうというケースもありますが、これはレアケースですので省いています。
減耗を防ぐための対策
- 「馴致(じゅんち)飼育」
放流前に自然に近い環境で育て、適応力をつける。 - 放流の時期・場所を工夫する
餌が豊富で捕食者が少ない場所を選ぶ。
これらの工夫により、放流した魚の生存率を高め、漁業を長く続けられるようにしています。
まとめ

先生、増殖って本当に効果があるんですか?

もちろんです。漁業を続けていくためには、魚を守りながら獲る工夫が必要です。環境を整えたり、稚魚を育てたりすることで、将来も安定して魚を獲ることができるんですよ。
増殖は、魚の数を増やし、持続可能な漁業を守るための重要な取り組みです。環境を整えたり、稚魚を育てたりすることで、私たちの食卓にも美味しい魚が届けられます。
これからも、技術の発展とともに、より良い増殖の方法が研究されていくでしょう。
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