
今回は、フナのなかまを使って、“雑種”や“キメラ”、それに“変種”“品種”など、生き物の名前に関する特別な表記のルールをわかりやすく説明していきます。

えっ、雑種にもちゃんとした学名の書き方があるんですか?「×」とか「+」って見たことあるけど、意味は知らなかったかも!
学名の表記のおさらい

学名は、生き物の名前を世界共通で正しく伝えるための表記方法で、分類学においてとても重要な役割を果たします。

- 基本的には「属名+種小名」の2語(※二名法)からなり、属名は先頭を大文字、種小名はすべて小文字で表記します。
- 同じ属が続く場合、2回目以降は属名を頭文字で省略して「C. cuvieri」と表記できます。
- また、分類が不明な場合は「sp.(単数)」や「spp.(複数)」といった略語が使われ、「Carassius sp.」のように属まではわかるが種が不明なケースに使われます。
🐟 雑種とは?自然にできる“あいのこ”

今回は、フナのなかまを使って、“雑種”や“キメラ”についてわかりやすく説明していきます。
◆ 雑種とは?
「雑種(ざっしゅ)」とは、
ちがう種類の生き物同士が子どもをつくったときに生まれる生き物のことです。
たとえば、ゲンゴロウブナ(Carassius cuvieri)とコイ(Cyprinus carpio)が交雑(こうざつ)して生まれたコイフナがその代表例です。
このように、近い種類(同じ「コイ科」)であれば雑種ができることがあります。
◆ 種間雑種(しゅかんざっしゅ)とは?

種間雑種は、
同じ属(グループ)に属する別の種類どうしが交雑して生まれる雑種のことです。
たとえば、ゲンゴロウブナ(Carassius cuvieri)と
オオキンブナ(Carassius auratus bergeri)は、どちらもフナ属(Carassius)に属しています。
この2種が交雑して雑種が生まれた場合は、こんなふうに書きます:
表記その①:親の名前をそのまま使う場合
→ Carassius cuvieri × Carassius auratus bergeri
(ゲンゴロウブナのメスとオオキンブナのオスの子という意味)
表記その②:雑種に名前がついている場合(自然交雑など)
→ Carassius ×○○○(例:Carassius × hybridus のようなイメージ)
(“×”が付いていることで、「これは雑種です」とわかる)

このように、「×(かける)」を使って、
どの種類とどの種類の子かがすぐにわかるようにします。
◆ 属間雑種(ぞくかんざっしゅ)

属がちがう生き物同士でも雑種ができることがあります。
たとえば、コイとフナは属が違うけれど、まれに雑種が生まれる例があります(コイフナ)。
このとき、もし新しい属名と種名をつけるとしたら
Carassius cuvieri × Cyprinus carpio
×Cyprinocassius hybridus(架空の名前)
上記のように「×」を属名の前に書いて、「これは雑種の属ですよ」という意味になります。

でも、これはごくまれなケースで、普通は新しい名前はつけません。
だいたいは「コイ × フナ」と書いて終わりです。
◆ キメラってなに?

「キメラ」は少しちがいます。たとえば植物の世界では、2つの植物をくっつけて1本の木のように育てる「接ぎ木(つぎき)」という方法があります。
このとき、まれに細胞や遺伝子が混ざり合って1つの生き物になることがあります。それがキメラです。
魚では自然にキメラになることはほとんどありませんが、植物や一部の両生類では知られています。
キメラを学名で書くときは「+(プラス)」を使います。

たとえば、トウガラシとピーマンが混ざった「ピートン」はこう書きます
Capsicum annuum + Capsicum annuum ‘grossum’
◆ 雑種に学名をつけない場合もある
バラや野菜のように、たくさん交配されていて何が混ざっているのかよくわからないときは、学名を書かずに品種名だけを書くこともあります。
魚でいうと、もしコイとフナの雑種にさらに別のフナがかけ合わさって、もうぐちゃぐちゃになっていたら、
「Carassius cuvieri × (Carassius langsdorfii × Cyprinus carpio)」
のように書くこともありますが、
ふつうはそこまでややこしいことは書かず、「コイフナの改良品種」といった説明ですませます。
🍀 変種(へんしゅ)と品種(ひんしゅ)の違いとは?

名前は似ていますが、「変種」と「品種」は意味も使い方も大きくちがいます
🔹変種(var.):自然界で起こった“ちがい”

「変種」とは、同じ種の中で、自然に発生した見た目や性質の違いをもつ集団のことです。
体のうろこが半透明で、内臓がうっすら透けて見えるタイプ
普通のギンブナと比べると外見は大きく違いますが、同じ種に属します
このような特徴が地域や環境の違いで長く受け継がれた場合、「変種」として区別されることがあります。
※植物では、変種の学名に var. をつけて表します
例:Brassica rapa var. pekinensis(ハクサイ)
🔸品種(‘ ’):人の手でつくられた“個性”

「品種」とは、人が選んで育てた特徴ある生物のグループのことです。
赤や白、黒などの模様が美しい観賞用のコイ
長年にわたって人間が選んで交配を重ねてきました
このような品種は、農業・園芸・観賞魚などで多く使われます。

植物では ‘品種名’ をつけるのがルールで、
例:Brassica rapa ‘耐病60日’などと表記します。
⚠ 魚などの動物では「変種」「品種」は正式な分類ではない

結局、金魚やコイはどう表記すればいいんですか?

現在の国際動物命名規約では、
動物には「変種(var.)」や「品種(‘’)」の学名は基本的に使われません。
ただし、観賞魚の世界や古い文献では「金魚はフナの品種」などと誤表現されることがあります。
これは便宜的な表現であり、生物分類学の正式な地位ではないことに注意が必要です。

一応、主として「金魚の学名」は
「Carassius auratus auratus」が正しい表記になりますね。
🔄 学名の変移(へんい)とは?―名前が変わるってどういうこと?
学名は一度決まったらずっと同じ…と思いがちですが、実は分類学の進化によって変更されることがあります。
これを「学名の変移」といいます。
例:フナ属の学名の変化
かつて、スウェーデンの学者リンネは、フナを次のように命名しました。
Cyprinus carassius(1758)
→ 当時はフナを「コイ属(Cyprinus)」に分類していた
その後、1832年にニルソンという研究者が、コイ属の一部であるフナたちを独立した属「Carassius(フナ属)」として再分類しました。
その結果、名前が次のように変わります:
Carassius carassius (Linnaeus, 1758)
Carassius gibelio (Bloch, 1782)
※カッコ( )で命名者名と年号が囲まれているのは、「属名が変更されたこと」を示しています。
また、日本の在来フナたちのように、はじめからフナ属で命名されていた場合は括弧は付きません。
学名の変移があるとどうなるの?
図鑑や論文などで旧名と新名が混在する場合があります
研究の正確さを保つため、括弧で変移を明記するルールがある
新しい分類法が導入されると、今後も変更される可能性がある

学名は「世界中の生物の住所」のようなもの。時代が進むにつれて引っ越しが起きることもあるのです。
まとめ
- 雑種:異なる種どうしが交配して生まれたもの。「×」で表記
- 属間雑種:属の違う生物どうしが交配。「×属名」として書くことも
- キメラ:細胞が混ざり合った特別な存在。「+」で表記
- 変種・品種:自然の違いが「変種」、人為的な改良が「品種」
ただし、魚類には学名としては基本的に使わない - 学名の変移:属名が変わると、命名者名に括弧が付く

へえー、“コイフナ”にもちゃんとした学名の書き方があるんですね!
「×」とか「+」って、意味がちゃんと決まってるんだ

その通りです。生き物の関係や由来を正しく伝えるために、学名のルールをきちんと守ることがとても大切なんですよ。
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