
魚の名前には「学名」「標準和名」「地方名」「商品名」など、いくつかの種類があるんです。それぞれに文脈や目的、歴史的な背景があるんですよ。

なるほど。研究者の学名や、地域の方言名、魚屋さんの商品名って、役割が違うんですね。

その通りです。時には重なり合ったり、矛盾したりもします。本記事では、そうした「魚名の分類と特徴」を整理して、名前を通じて魚と社会の関係を深く理解する視点を提案しました。

名前を学ぶことが、人と魚のつながりを知る第一歩になるんですね。
標準和名──日本国内での共通語としての役割

「マダイ」「アユ」「ギンブナ」など、私たちが日常的に使っている魚の名前の多くは、標準和名と呼ばれる学術的な日本語名です。
これは、日本国内での研究・教育・行政において、混乱なく情報共有するために整備された名称です。地域ごとに異なる呼び名を一本化し、図鑑や論文、学校教育でも一貫した使用を可能にします。


標準和名は、以下のような原則に基づいて定められます:
- 古くから使われていた名前(文献・漁業など)を尊重
- 学名との整合性を考慮
- 他の魚と混同しないよう、形態や色を反映した名前を選定
たとえば「キンブナ」は金色の体色、「ニゴロブナ」はゲンゴロウブナに似た姿に由来します。こうした命名には、科学と文化の両面からの配慮が込められているのです。
学名──世界共通で使われる分類のコード

学名は、ラテン語を基本とした国際的な命名ルールに則って付けられます。魚類だけでなく、動植物全般に共通する「属名+種小名(+亜種名)」の二語名法または三語名法が基本です。

キンギョ
Carassius auratus
ギンブナ
Carassius auratus langsdorfii
マダイ
Pagrus major
また、学名にはラテン語の語源が反映されており、「auratus=黄金色」「japonica=日本の」「major=大きい」など、その魚の特徴や発見者への献名が含まれることがあります。
これにより学名は、分類・発見・記録の歴史を保存する知の装置とも言える存在です。
地方名──暮らしの中から生まれたことば

地域ごとに独自に使われてきた魚の呼び名、それが地方名(方言名)です。標準和名や学名とは異なり、地域の自然や暮らし、言語に根ざした呼称です。
たとえばフナは、
北海道 「ランパラ」
アイヌ語 「トチェプ」
東北 「フナッコ」
関東 「マブナ」
沖縄 「ターイユ」
など、地域ごとにまったく異なる名前で呼ばれています。

これらは、漁法、食べ方、季節感、風景などの生活実感が色濃く反映された名前であり、魚と人の関係の記憶そのものです。

しかし近年では、標準和名の普及や方言の衰退により、地方名の多くが失われつつあります。
地方名は今や、貴重な文化遺産でもあります。
商品名・流通名──売るための名前の工夫

スーパーや市場、観賞魚店で見かける名前の中には、学術的な根拠よりも「わかりやすさ」や「売りやすさ」を重視した商品名・流通名が使われています。
たとえば、
「マアジ」 → 「アジ」
「ホンマグロ」 → 「クロマグロ」
「アカウオ」 → 複数の魚種の総称
といった簡略化や混合があります。

また、観賞魚として売られるフナ類も「金魚」「エサ用フナ」などの流通名で扱われることが多く、学名や標準和名が省略されるケースもあります。

どうしてこんな名称になっているのですか?

こうした命名には、
・マーケティング上の工夫
・流通の簡便化
・価値を強調するための演出
といった商業的な視点が反映されています。

商業的な目的なんですね。

一方で、分類学とのズレが誤認や混乱の原因になることもあり、正確な表示の必要性も高まっています。
外国語名──翻訳と分類のあいだで

魚の名前を外国語に翻訳する際、分類・文化・言語の違いから混乱が生じることがあります。
たとえば「フナ」は英語で
- “crucian carp”
- “Japanese crucian carp”
- “carp”
などと訳されますが、実際にはこれらが指す種は異なります。crucian carp はヨーロッパ原産の別種(Carassius carassius)であり、日本のギンブナとは別物です。

また、英語・ドイツ語・フランス語では命名文化や言語感覚も異なり、分類との対応が一対一にならないことが多くあります。

そのため、魚名の翻訳は単なる言い換えではなく、
文化や生態系に対する理解を前提とした慎重な作業が求められます。
おわりに──名前を読み解くことは魚を知ること

魚の名前って、実はすごく多面的なんですよ。科学的な分類だけじゃなくて、地域の暮らしや文化、商業、そして国際的な理解まで、いろんな視点が交差しているんです。

へえ、名前ひとつでそんなに広がりがあるんですね。

そうなんです。名前を知ることで、魚という存在が平面的じゃなく、もっと立体的に見えてくるんですよ。

なるほど。じゃあ名前の背景を知ることが、魚と人とのつながりを理解する入り口になるんですね。

その通りです。名前をたどることは、魚と人との関係を理解する第一歩なんですよ。


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