【琵琶湖の漁業】春・夏の漁具と漁法

水産学

群れるギンブナ(琵琶湖博物館にて)

冬の間、北湖の深所、あるいは岸辺の水草地帯や泥の中じっとしていたコイ・フナ・モロコアユ・ウナギ・ナマズ等の多くの魚たちが、彼岸も過ぎて湖の水温が10℃を超えるようになるとやがて活動を始め、水温の高まる春から夏にかけて産卵期を迎えます。この時期は、琵琶湖の魚が最も活発に移動する季節であり、それはまた漁師が一年を通じて最も盛んに漁獲活動を展開する時期でもあります。

北湖では、冬の間に十分に整えられた安曇川、天の川、石田川などのカットリヤナ、また姉川のヨツデヤナやアンドンヤナののぼり簗がアユ、ウグイ、ハスなどが登ってくるのを今やおそしと待ち構えています。また、長浜〜彦根・尾上〜海津・今津などの湖岸の開けた場所では、鮎の接岸とともに追いさで漁が開始されます。

琵琶湖一帯の湖岸では、琵琶湖の特徴的な漁法である大規模な定置性漁具の魞が稼働を始めます。各種のウエ(筌)が設置されるのもこの季節です。竹製のフナタツベ・フナモジ・モロコウエ・ドジョウモジ・コザカナモジや網製のモンドリなど、各種各様の筌がコイ・フナ・ナマズ・モロコ・ドジョウ等を対象として護岸や内湖の水草地帯、川の河口や田んぼ、用水路など魚がやってきそうな地点に仕掛けます。

また、湖へ流入する河川の河口付近では、降雨後に産卵に登ってくるフナ・コイを狙って打綱、押綱、さで綱などの各種漁法が盛んに行われます、これらは漁業者だけでなく、一般市民も行う遊漁的色彩の濃い漁法です。


以上は湖岸寄りで行われる漁法ですが、湖中では湖国名産フナズシの原料であるイオ(ニゴロブナ)の刺し網漁(小糸綱)が盛んに行われます。小糸漁は漁のはじめは沖合の深い所に仕掛けられ、フナの産卵が近づくとともに次第に接岸してなされ、網は魚の通路を横切る形で、文字通りの網目のように張りめぐらされます。特に琵琶湖大橋周辺ではイオが北湖から南湖へ向かう通過点であって、大量に漁獲があります。

ここで春の漁を集約すれば、河川を登るアユを除けば、一般に産卵に向かう魚とこれを待つ漁具・漁法という形で捉えることができるでしょう。

ゲンゴロウブナ(琵琶湖博物館にて)

琵琶湖の魚の生活空間は水温に対する要求から区分すると、大きく二つのグループに分けることができます。ひとつは冷水に住むグループで、ビワマスやウツセミカジカが含まれます。残りは温水を好むグループで、コイ科の魚はほとんどがこれに当てはまります。

琵琶湖のように深い湖では、夏のように暖かい時期には、垂直方向に水温分布が分かれ層状になります。一方、25〜30m以深の深いところでは、夏でも8〜9℃を保っています。この層は深水層と呼ばれています。表水層と深水層の中間の層は急激な温度変化が生じるので、水温躍層と呼ばれています。夏期にはこの三つの層が存在するわけですが、これが冬期には上から下まで全く変わらずに8℃前後の単一な分布になります。

このとき重要なことは琵琶湖では夏でも冬でも一定の低い水温を保持する深水層が大きく存在することです。つまり、冷水を好む魚種の生活する空間が年中充分に用意されているということです。水温分布が層状になる夏期には、上記のようにフナをはじめとするコイ科に属するほとんどの種類やアユ、ヨシノボリなどが表水層で生活し、イサザ、ビワマスなどの冷水を好むものは深層で生活します。

このように水温が層状に変化することから、ここにすむ魚たちもそれぞれに適した場所へ移動して暮らします。こういった魚の生活する層を狙って仕掛けられるのがコイトアミやハリコです。

また、この時期には、魚たちは盛んにエサを食べますから、ウケ、竹筒やハリコのようにエサを用いた漁が行われるのも特徴です。そして、私たちが真夏の最も暑い時期に食欲や活動力を失うのと同様に8月の盆の頃はどの漁も操業されない時期を持つのも特徴の一つです。

参考文献

琵琶湖の魚と漁具・漁法 1984年
発行滋賀県立琵琶湖文化館
印刷 (有)森田印刷

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