【琵琶湖の漁業】秋・冬の漁具と漁法

水産学
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ギンブナとワタカ(琵琶湖博物館にて)

産卵のために体力を消耗した魚たちは、夏の間、思い思いの場所でゆったりとエサを採り、憩いの期間を過ごしましたが、盆を過ぎ表水層の温度がピークを過ぎて下降の兆しを見せると、俄然食欲を増し、厳しく長い冬越しと、その後に果たさなければならない産卵という大事業の為の体力・栄養の蓄積にかかり始めます。

例えばコイやフナでは、産卵後のものは骨と皮ばかりで、とても食用になる代物ではありませんが、ほんの2〜3ヶ月過ぎただけで、これが同じ魚かとは思えない程に油がのり、美味しくなります。またこの時期に多くの魚が移動を始め、冬越しのための安定した水域を求め移っていきます。これに伴い、漁業の方も再び活性化していきます。しかし、この秋の魚の移動は貼るほどには大規模で一斉には起こりません。それぞれの魚が少しずつ、1尾または1尾と移動してゆきます。このため春から夏に行われる漁よりも小規模にしか行われません。

春から夏にかけて行われる漁の対象となる魚は大部分がこの時期の散乱のために移動する魚たちですが、実は秋に産卵する魚もいるのですアユとビワマスがそれです。(しかし、この二者については資源保全の考えと、すでに非常に数が減っているために、それぞれの漁は現在ではほとんど行われていません。)
アユは琵琶湖には大量にいるものの、アユ苗として利用される以前は、現在と違って、だいぶ価値の低いものでした。特に秋、産卵のため河川付近に集まるアユは容易くとれますが、産卵のために体の蓄積物が卵に移行していますから食べてもまずく、肥料に使われるだけでした。

また、ビワマスはかつては大量に河川からさかのぼり、勇壮な産卵活動を容易に見ることができたそうです。この時期のビワマスをアメノウオと呼び、野洲川上流部では遊漁的に、火箸をU字に曲げたものを棒の先につけ、ヒレに引っ掛けて漁獲していたそうです。実際は産卵で遡上したものですからまずく、ネコマタギ(猫も跨いで通るほどまずいもの)の部類に属していたそうです。しかし、現在は河川も改修工事や圃場整備のために排水路化され。ビワマスが遡上できる河川は、湖西北部の数河川を残すだけとなりました、それも完全に上流に井置着いて産卵できるものは皆無に等しく、皆河口付近で捕獲され人工授精の種親として使われています。

秋の漁として有名なものにハリコ漁(ハエ縄漁)がありました。これは秋から冬にかけて越冬準備でエサをよく食べる魚を対象とされていました。しかし、この漁も近年に至って動力船や新しい漁業の導入、魚種に対する時代の新しいニーズの変化に押し流され、急速に廃れ、現在ではわずか一部の老漁師が行なっているに過ぎません。

こうやって夏から秋にかけて漁法を見てゆきますと、現在ではほとんどの漁法が行われておらず、わずか小地曳網でホンモロコが、沖曳網でゴリが取られるだけです。今の時代を漁獲物で端的に言うとすれば、かつてのヒガイの時代に対してアユの時代と言うことができるでしょう。それはアユの成長率の良さ、養殖技術の向上、輸送技術の確立によります。アユは一年魚で、秋に卵から孵った稚魚はよく歳の夏には生魚となり秋に産卵して死んでゆきます。短いライフサイクルと早いタンパク質の生産能力。それに味覚の良さが現代にあっているからなのですが、使い捨ての風潮に一脈通じるところがあって、お金になるからといって手離しで喜んでいいものかどうか心配です。

水底に留まるニゴロブナ(琵琶湖博物館にて)

琵琶湖に北国からの渡り鳥が飛来する頃、湖国はしだいに冬の出立ちに変わっていきます。湖北の山々には新雪が降り積り、その景観は新緑のころとはまるで別のところに来たかのような、尊厳で雄大な世界です。このような指揮の移り変わりの中、湖中では、冬の魚の生態をうまく利用した漁法が長い間の経験から生まれ、そして育まれてきたのです。

冬期に水温が下がると、温水型の魚のニゴロブナを始めとするモロコ、ワタカ、ヨシノボリ、スジエビなど今まで沿岸や表層にいたものが、次第に琵琶湖の深部(主に北湖)に移動し、ボテ(タナゴ類)・ニゴロブナ・ゲンゴロウブナの稚魚・ハスの稚魚やオイカワなどは湖岸付近の水草の多い所で冬を越します。こういった魚たちの行動は、水温が下がってくるために起こるもので、魚の体温は普通、水温と同じですから、水温が下がってくると魚の体温も下がり代謝活動が鈍くなります。その結果、魚たちは動作が鈍くなり、冬期には表層よりも水温の高い北部の深部や水流の少ない湖岸の水草の茂っている所などで、できるだけ体を動かさずに冬を越すのです。こういった魚たちとは逆にアユ・ハス・ゲンゴロウブナ、そして冷水性のビワマスやイサザなどは冬でも活発に活動しています。

また、冬の琵琶湖の魚たちは、ビワマスなど秋に産卵するものを除いて春に産卵しますから、冬には産卵に必要な栄養を体に蓄えています。そのため冬の魚は脂がのっていて、一年のうちで最も美味しい時期にあたります。

琵琶湖の冬の漁の特徴は、産卵時期前の超えている貝を採るカイビキ漁や、シベリヤなど北の国からやってくる鴨をとらえるモチナワ漁など、琵琶湖の四季のうちでも色々変化に富んだユニークな漁法が行われていることです。

参考文献

琵琶湖の魚と漁具・漁法 1984年
発行滋賀県立琵琶湖文化館
印刷 (有)森田印刷

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