フナの起源
まず、コイ科魚類が進化したと考えられているのは海ではアンモナイトが進化を続けている中生代白亜紀。
ローラシアの南の方で初めて誕生した。この頃ローラシア大陸とゴンドワナ大陸が完全に分裂していたこともあり、この為、アメリカではフナ属魚類は生息してない。
コイ科のいくつかのグループが元となる先祖が誕生する中、フナ属の起源が誕生したのは新生代、新第三紀といわれる。これは日本列島の元ができるよりも前である。
今から2000万年前の東アジア。この頃、日本列島はユーラシア大陸と陸続きであり、日本海は巨大な湖としてコイ科魚類の新たなグループが続々と誕生しており、その頃にフナ属も誕生したといわれている。
日本列島ができてすぐはフナよりも新しく生まれた魚類グループが栄えており、フナやコイのように古いグループの魚類は大陸で栄えていた。中国大陸や朝鮮半島にフナ属魚類が多いのもその為である。
フナ属魚類が日本列島で繁栄するのは今から約400万年前であったといわれる。この頃、現在在来している日本淡水魚の他にもクセノキプリス属、クルター属というグループが生息していた記録がある。
フナのグループはその後、生息数を増やして350万年~230万年前にはコイよりもフナの方が多くなった。
フナの分類と世界のフナ類
フナ類は、頭部が大きくやや側偏した独特の体型をしており、稚魚の尾柄部に現れる帯状の暗色斑紋を除けば、目立った模様や色彩は出ない魚である。
世界に生息するフナはゲンゴロウブナ、ヨーロッパブナと、その他の極東地域のフナ類すべて、となっているのだ。極東地域のフナ類は、系統関係がある程度調べられているが、亜種、種のどのレベルまで分化が進んでいるかは不明である。また、同定が困難なものが多く、採集されるため、整理が遅れている。
国内の分類学の進展
日本では比較的、集団についての解析が進んでいる。いくつかの独立した集団が確認され、学名が与えられ、多くは便宜的に亜種レベルで扱われている。しかし、形態だけではどの集団に属すか不明瞭なフナ類も各地から採集されるため、分類学的整理は日本においても完了していない。
中国には日本産のギンブナやオオキンブナに遺伝的に近いと考えられるフナが主に分布しているほか、黒竜江・アムール川水系には、かつてギンブナと関係が深いと考えられてきたギベリオブナが分布している。また、日本産を含むこれらのフナとは別にヨーロッパブナが中国の北部からヨーロッパにかけて分布している。
筋奬蛋白像での分類
筋奬蛋白とは、筋肉の中にある筋原繊維の間にあるタンパク質である。そこに電流をながすとタンパク質や酵素が染色され、バンドが出現する。そのバンドは種によって異なるので、フナ属魚類の分類に使用できる。バンドの形状は6種の染色濃度の濃淡からなっており、フナの泳動像はⅠ~Ⅳ型に分類される。
1)Ⅰ型には、C.auratus種の中でもキンブナやオオキンブナが含まれる。また、二ゴロブナやナガブナもこのグループに含まれるが、泳動像の第5バンドの濃度が相対的に高い為に分類を行うこともできる。特徴は第1バンドの濃度が高く、第5バンドの濃度が短い。
2)Ⅱ型にはC.auratus種のギンブナ全般が含まれ、第5バンドの濃度が著しく高いことが特徴である。
3)Ⅲ型にはC.cuvieri種であるゲンゴロウブナが含まれる。第5バンドが高く、第Ⅰ~3バンドが欠如している所が特徴的である。
4)Ⅳ型にはC.carassius種であるヨーロピアンブナ特有の型である。第1バンドの濃度が高く、第5バンドの濃度が低い点ではキンブナに似ているが、第2バンドを保有する特徴がある。また、この型はコイの泳動像に類似している為、系統的にもコイと近縁であることが伺える。
DNA分析によるフナの系統
日本に分布するフナの由来や世界的なフナの詳細についてわかっていなかった。 そこで,ユーラシア大陸各地のフナのDNAを取り込み解析した結果、5つの事実が判明した。
1)世界に分布するフナ類はゲンゴロウブナ(C.cuvieri)、ヨーロッパブナ(C. carassius)、その他のいわゆるフナ(C. auratus 種群)の3種に分けることができ、その内のいわゆるフナはさらに2つの系統からなる。
2)フナの2つの系統の歴史は非常に古く(約400万年前に分化),一方は日本列島に固有で,他方は大陸・台湾・琉球列島に固有ということが判明した。前者は3つの地域固有系統(本州系統,本州+四国系統,九州系統)からなり,後者は4つの系統(ユーラシア大陸全域系統,琉球列島系統,台湾系統,中国系統)からなることが明らかとなっている。
3)沖縄のフナにも自然分布の個体群の存在が明らかになり最も近縁な中国系統との分岐が数十万年(ゲンゴロウブナの化石を基にすると17万年,cytb遺伝子の分子時計を用いると99万年)である。
*沖縄のフナには人為的に持ち込まれたと思われる個体もいる。
4)日本列島の3つの地域固有系統は,日本に分布するといわれるキンブナ・ギンブナ・ナガブナ・ニゴロブナ・オオキンブナなどと呼ばれるグループとは対応関係がなかった。また、フナの中には3倍体の雌だけでクローン発生により繁殖する個体がいるが,このような3倍体のフナは今回見出された全ての系統で見つかり,同じ川から採集された2倍体と3倍体が,全く同じ遺伝情報を共有していることもあった.このことから,3倍体性は,一部のフナだけが持つ性質ではなく,全てのフナの系統が持つ性質で,各地域で繁殖を通して2倍体から3倍体が,またその逆が恒常的に生じている可能性がある.
5)キンギョは中国系統に近縁であることがすでに知られていたが、フナの全体像の中でそのことを明瞭に確認し、全ての金魚は中国系統の一員であることが明らかになった.日本で作られた金魚の品種も,もともとは中国のフナを基に作られた。
淡水魚類地理の自然史―多様性と分化をめぐって
出版社/メーカー: 有限中間法人 北海道大学出版会
発売日: 2009/12 メディア: 単行本
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