【実験学】組織標本まとめ

水産学

目的

今回の実験は魚類を解剖を行い、各器官や臓器を摘出し、それをプレパラートにして観察するまでの過程を学ぶ。今後行う予定の研究もフナの脳や皮膚を固定して観察するつもりのために役立つと考えられる。

ニジマスの解剖手順

試験魚

ニジマス(Onchortynchusmykiss(Wallbaum)
ニジマスは、フナやコイと比較して内蔵が観察しやすい特徴がある。また、胃や幽門垂が内部けいたい欠損しているコイよりも基本的な臓器が揃っている点、脳が体重と比べて多い為、脳が観察摘出しやすい特徴もある。

解剖

 エラブタ後端の上方からハサミを入れ脊椎を切断する。肛門のやや前方に、玉突きバサミで切れ目を入れ、玉の方を腹腔に入れて頭のほうに向かって腹部を切断していく。胸びれの付け根まで止める。
 腹びれをつかんでややもちあげ、最初にはさみを入れたところから、今度は体側金を斜め上方に向かって切開する。塞栓のやや下くらいまで来たら側線と平行に頭部に向かって切り進む。体側筋と助骨を切っていくことになる。鰓蓋後端までくると、肝臓が見えるはずである。さらに下方へ切り進み、腹部のところで体側筋を切り離す。体脂肪でかなりの部分が覆われているかもしれない。た体脂肪はできる限り取り除き、内蔵の配置を簡単スケッチする。中央に赤黒く見える器官は脾臓である
 続いて、鰓蓋を顎の後端くらいで切り取ると、鰓が見える。白い部分は鰓弓と鰓耙で赤い部分が鰓弁である。
 次に、胸鰭の根元付近の体側金を注意深く前方へ切り開くと、手前に心臓が見える魚類の心臓は白い部分は動脈球である。血液は動脈球から鰓へと流れ、酸素化させる。動脈球の後ろの肝臓に近い色をした部分が心室。その上の、赤黒い部分が心房である。大まかな配置をスケッチする。

内蔵の取り出し

 腸管の後端を切り、ピンセットで引っ張ると腸、幽門垂、胃、脾臓、肝臓、食道がひとかたまりのまま取り出せる。肝臓の上の部分に食道があるので付近にある胆嚢に注意して切り取る。鰾は解剖中に敗れてしまったので割愛する。また、精巣および卵巣も確認されなかった。
 内蔵を取り除いたあと、腹腔の背中側に細長く赤黒く見えるものが腎臓である。頭部には頭腎がある。鰓を取り出し、枚数を確認する。左右に4対ある。心臓も切り出して配置を確認する。最後に脳を摘出する。脳は脳下垂体の摘出が難しいため、朝比奈教授に行っていただいた。脳の先端が終脳、視葉、小脳、延髄がある。
   

1、生物試料の切り出し

組織の変質を防ぐため、屠殺直後の動物から目的の部分をすばやく取り出す次に述べる固定の際、固定液の浸透をよくするため、試料はなるべく小さめに切り出す

2、固定

生の試料は柔らかく、また、変質しやすいために取り扱いが難しい。そのためにまず、薬剤を用いて試料の変成を止め、生の時には液状またはコロイド状であった部分を硬化させ、観察しやすい状態で組織を保存できるようにすう必要がある。この操作を固定という。

固定液

 今回はブアン液を使用する。ブアン液はピクリン酸飽和水溶液:ホルマリン:氷酢酸を15:5:1の割合で混合する。ピクリン酸は有毒物質であり、TNTと並んで爆発力が強いので、25%の水分を含んだ状態で市販されている。温めた蒸留水にピクリン酸を加えてよく混ぜて溶かし、冷却して結晶と摘出させて飽和水溶液を作る。固定時間は2~24時間。この固定液で凝縮された凝固物質は大部分が水溶性であるので、固定後の組織片をすばやく水洗して余分な固定液を落としたあと、直接80%~90%アルコールに入れて脱水する。この固定液は固定力、浸透性、染色性に優れているが、各々の細胞はやや収縮した像を示す。廃液は専用タンクに集める。

3、洗浄

  水またはアルコールを用いて洗浄を行う。固定方法によって異なる。

4、脱水

 固定した試料は不透明な固まりのままであるため、そのままでは観察できない。そこで順次高いエタノールに組織編を浸して次第に水分をアルコールに置き換え、さらにパラフィンやプラスティックなどの堅い物質で置き換えた後、埋め込まれた試料をよく切れる刃物で薄く切り、光が試料を通過できるようにする。こうして初めて、顕微鏡での観察が可能となる。

脱水方法

 脱水にはステンレス製の小型カゴの中に組織を入れて行う。かごの「ツメ」は外側に軽く力を加えて開閉する。固定の時と同じように脱水中は時々ゆりかごを動かして周囲の組織とまんべんなく接触するようにする。
 脱水の作業には長時間かかるので、自動脱水機を使用すると良い。

① 70%エタノール 1~2時間
② 90%エタノール(Ⅰ) 1時間
③ 90%エタノール(Ⅱ) 1時間
④ 100%エタノール 1時間
⑤ 無水エタノール(Ⅰ) 1時間
⑥ 無水エタノール(Ⅱ) 1時間

5、透徹

アルコールはパラフィンとはなじまないので、アルコールと混じり、かつ、パラフィンとも混ざる物質(キシレン)とアルコールとを置き換えるいずれも引火製が強いので取り扱いに気をつける必要がある。また、蒸気を吸わないようにする。

キシレン:エタノール1:1 30分
キシレン 30分

6、包埋

パラフィン恒温槽を用いてパラフィンを融点よりもやや高めの温度に保ち、液状にしておく。この中に試料を漬ける。
 高融点パラフィン中に試料を長くおくと試料が固くなり、次の薄切がやりにくくなる。

包埋方法

ガラス、金属またはプラスティック製の浅い容器をあらかじめあたためておく。準備が出来たらパラフィン溶融機の中から包埋用のパラフィンを取り出し、温めておいた容器に移す。アルコールランプの炎でピンセットの先を熱しながら、包埋かごの中の組織片をすべて包埋容器の中に移す。
 温めたピンセットで組織編を切りやすい向きに並べる。名称、日付などを記録したラベルを用意して、裏返して容器のそこに並べておくと分類しやすい。

包埋手順

パラフィンに包埋した試料を整形して木製のブロックに付ける。組織片を切り出すために、まず、カッターでパラフィンの表面にすじをつけ、それに沿って割っていく。接着にはスパーテルを熱し、パラフィンの下を熱して溶かしてブロックの上に垂らしパラフィン片に押し付ける。ブロックは組織片の大きさによって縦にも横にも使用しても良い。

7、薄切・伸展

 今回の薄切に用いるミクロトームはライカRM2245を使用した。

薄切の手順

① 試料を固定台にセットする。
② まずは切片を全面に薄切できるように荒削りする。
③ 全体的に出るようになったら、メスの歯を交換して切片を切り始める。
④ うまく切れると複数枚つながるので、筆を用いて巻き取っていく。ある程度巻き取れたら黒い紙に広げる。
⑤ 綺麗なスライドグラスの上に切片の接着剤として卵白とグリセリンを混合した卵白グリセリンを少量垂らし、指でよく塗り伸ばす。
⑥ スライドグラスに切片を6枚程度乗せてその上から蒸留水を滴下する。
⑦ すりガラスに鉛筆で試料名などを記入する。
⑧ 一晩おいて切片が完全に乾いてから染色に回す。

8、切片の脱パラフィン

このようにして作られた組織切片はコントラストに貧しく、このままでは組織の細やかな構造を調べることはでない。そこで、切片からパラフィンをのぞいた後に様々な薬品で組織を染色して組織観察が行われる。また、いくつかの染色方法を組み合わせることにより、各組織を染め分けたり特定の物質を染め出したりすることもできる

脱パラの手順

① キシレン(Ⅰ) 5分
② キシレン(Ⅱ) 5分
③ 無水エタノール 5分
④ 100%エタノール 5分
⑤ 90%エタノール 5分
⑥ 70%エタノール 5分
⑦ 水洗

9、染色

 様々な色素を用いて細胞や組織の特定な構造を染め分けることができる。
これによって未染色のままでは識別が困難であった様々な組織構造や細胞の性質が明らかとなる。

HE染色

細胞核がヘマトキシンで青紫に、細胞質はエオシンで赤く染まる。最も日常的に染色を行う。
① ヘマトキシン1gを1ℓに溶かす。
② ヨウ素酸ナトリウム0.2gとカリウムミョウバン50gを加え、よく混ぜて完全に溶解させる。液は青紫色になる。
③ 抱水クローラル50gと結晶酸クエン酸1gを加えると赤紫色となる。
④ エオシンYを蒸留水に溶かし、0.5~1%溶液とする。

●染色方法

① 脱パラフィンした切片を水道水で洗い、ヘマトキシン液に5分間つける。
② 30分くらい流水で洗浄する。紫褐色だった切片が青紫色に変われれば良い。
③ エオシン液に5分間つける。
④ 水道水でて早く色素を落としてから切片の脱水系列に移す。70~90%エタノール中でも色素が落ちるので脱水も手早く行う。

アザン染色

 分泌組織や支持組織の一般観察に、ヘマトキシン-エオシン染色と並んで広く用いられる。分泌顆粒や組織が鮮やかに染められる。?原繊維と一部の細網繊維は青色、核や赤血球、好酸性顆粒は赤色、好塩基性顆粒は青色、コロイド性粘液は黄~赤~青色の様々な色に染まる。

●染色方法

① 脱パラフィンした切片を蒸留水に通し、アゾカーミン液に3~5分間つける。組織全体に赤になれば充分である。
② 水道水で色素を洗い流す。
③ アニリンアルコールで分別する。全体の赤を薄く染める。
④ 酢酸アルコールで軽く洗い分別の進行を止める。
⑤ 5%リンタングステン酸水溶液で40分間染色する。
⑥ 水道水で軽く水洗し、余分の色素を落とす。
⑦ アニリンブルー・オレンジG混合液で40分間染色する。
⑧ 水道水で軽く水洗し、余分な色素を落とす。
⑨ 96%エタノールで分別する。顕微鏡で色調を見ながら行なう。
⑩ 直接100%エタノールに移し、脱水・封入する。

PAS染色

 多糖類検出のためにしばしば用いられる染色方法、過ヨウ素酸により多糖類のグリコールに2つのアルデヒドを形成させ、そのアルデヒド2分子をSchiff試薬1分子とが反応して赤紫色の化合物が形成されることを利用している。

●染色方法

① 脱パラフィンした切片を蒸留水に通して、0.5%ヨウ素酸水溶液に入れて5分置く。
② 水道水で洗い、さらに蒸留水で洗う。
③ Schiff試薬に15分つける。
④ SO2洗浄液で洗う。2分ずつ3回替える。
⑤ 流水で洗う。この後、ヘマトキシンを3分間かけても良い。
⑥ 脱水系列から封入作業へ映る。

10、切片の脱水

① 70%エタノール
② 90%エタノール
③ 100%エタノール
④ 無水エタノール
⑤ ↑染色便の中で濯ぐ程度でよい。ただし、各駅をよく切って次に移す
⑥ キシレン(Ⅰ) 5分
⑦ キシレン(Ⅱ) 5分

11、封入

適当な封入材とカバーグラスで切片を封入することにより、切片が観察しやすく、かつ、保存性がよくなる。一晩乾かしたら完成である。

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