倍数性判定
フナ属魚類には三倍体集団(ギンブナ)が存在することから、二倍体と三倍体を識別するために行う。
顕微蛍光測光法に従い赤血球を用いる。
サンプル血液(99%エタノールで固定)をスライドグラスの右半分に滴下し、同時に二倍体の金魚の血液(コントロール用)をスライドグラスの左半分に滴下した。この際サンプル血液とコントロールが混ざらないように慎重に行った。エタノールが完全に蒸発するまでスライドグラスを風乾し、DNA染色液であるDAPI染色液中において30分~60分間染色した。
染色後、蛍光顕微鏡及び顕微蛍光装置を用いて赤血球1細胞あたり約20細胞ずつ行い、それぞれの平均値を比較することで倍数性を決定した。
結果
ギンブナは三倍体、その他は二倍体である。
形態測定
背鰭分岐軟条数、臀鰭分岐軟条数、脊椎骨数は、軟X線を用いてレントゲン撮影された骨格写真を基に計数を行う。また、鰓把数の計数は右側第一鰓把について行い、魚体から切除した右第一鰓弓をアリザリンレッド染色液で染色後、実体顕微鏡下で計数を行った。
3mm未満のサンプルについては幼魚のために計測並びに計数が困難であるため、形態測定は除外した。
鰓把数が100を超える個体はゲンゴロウブナと同定。鰓把数が30本、背鰭分岐条数が12本の個体はキンブナを同定された。
mtDNA分析
2倍体個体と3倍体個体をmtDNA分析に供した。フナの鰭小片(99%エタノールで固定)をチューブにいれ、TNES-UREA溶液、ProteinaseK(鰭を溶解する薬品)を加え、一晩インキュベート(保温)し、完全に鰭を溶解した。溶解後、DNAの抽出を行った。抽出したDNAは100V、10分間電気泳動し、トランスイルミネーターで増幅バンドを確認した。
系統樹の作成
作成したDNAデータを基に近隣接合法、最尤法、最大節約法による系統樹の作成を行った。
結果
近隣接合法、最尤法、最大節約法による各系統樹は樹形図の細部において若干の違いはみられるものの、共有する6つのクレードがみられた。
- キンブナ、二ゴロブナが属し、形態形質より琵琶湖で採集された個体がニゴロブナに近いと推定された。
- 三重県産の2倍体個体のほとんどがこのクレードに属した。
- 五島列島福江島産の個体について、2倍体と3倍体全ての個体がこのクレードに属した。
- 2倍体と3倍体の2種類構成されたが、2倍体個体はキンブナと同定されている。
- 2倍体個体とゲンゴロウブナにより構成された。2倍体個体はゲンゴロウブナと同定されている。
- キンギョとヨーロッパブナにより構成された。
フナ類は、北海道から沖縄まで普通に見られる魚である。それでもフナはこれまで多くの研究者によって研究されてきたのにもかかわらず,日本に分布するフナの由来や世界的なフナの詳細についてわかっていなかった。
そこで,未調査だった琉球列島や台湾を含む31地点800個体のミトコンドリアDNAを分析し(多くの個体は,現地で血液と鰭の一部を少々頂いてから,その場に再放流している),ユーラシア大陸各地のフナのDNAデータを取り込んだ上で,最新の方法を用いて解析した。(RAxMLによるsupermatrix法).以下にその主な5つの結果を記している.
(1)世界に分布するフナ類は,ゲンゴロウブナ(Carassius cuvieri),ヨーロッパブナ(C. carassius),その他のいわゆるフナ(C. auratus 種群)の3種に分けることができ、その内のいわゆるフナはさらに2つの大系統からなる.この結果は,並行して行われた核DNA(AFLP)を用いた研究で支持している。
(2)フナの2つの大系統の歴史は非常に古く(約400万年前に分化),一方は日本列島に固有で,他方は大陸・台湾・琉球列島に固有ということが判明した。前者は3つの地域固有系統(本州系統,本州+四国系統,九州系統)からなり,後者は4つの系統(ユーラシア大陸全域系統,琉球列島系統,台湾系統,中国系統)からなることが明らかとなっている。
(3)沖縄のフナにも自然分布の個体群の存在が明らかになり最も近縁な中国系統との分岐が数十万年(ゲンゴロウブナの化石を基にすると17万年,cytb遺伝子の分子時計を用いると99万年)である。
*沖縄のフナには人為的に持ち込まれたと思われる個体もいる。
(4)日本列島の3つの地域固有系統は,日本に分布するといわれるキンブナ・ギンブナ・ナガブナ・ニゴロブナ・オオキンブナなどと呼ばれるグループとは対応関係がなかった。また、フナの中には3倍体の雌だけでクローン発生により繁殖する個体がいるが,このような3倍体のフナは今回見出された全ての系統で見つかり,同じ川から採集された2倍体と3倍体が,全く同じ遺伝情報を共有していることもあった.このことから,3倍体性は,一部のフナだけが持つ性質ではなく,全てのフナの系統が持つ性質で,各地域で繁殖を通して2倍体から3倍体が,またその逆が恒常的に生じている可能性がある.
(5)キンギョは中国系統に近縁であることが既に知られていたが、フナの全体像の中でそのことを明瞭に確認し、全ての金魚は中国系統の一員であることが明らかになった.日本で作られた金魚の品種も,もともとは中国のフナを基に作られたのかも知れない。
参考文献
Biogeography and evolution of the Carassius auratus-complex in East Asia
Mikumi Takada, Katsunori Tachihara, Takeshi Kon, Gunji Yamamoto, Kei’ichiro..
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