
今回は「フナの系統解析」について解説していきます。
フナは身近な魚ですが、系統という視点から見ると、とても奥深い魚なんですよ。

フナにも系統解析が関係しているんですね。
少し専門的ですが、どんなことがわかるのか気になります。

そうですね。
難しく感じる部分もありますが、まずはフナの分類を考えるために、
どのような調べ方があるのかを見ていきましょう。

わかりました。
見た目だけではわからないフナの関係について、
少しずつ学んでいきたいです。
フナの系統分類とは


系統分類とは、
生き物同士の進化的なつながりをもとに関係を整理する考え方です。
フナ類は見た目がよく似ており、地域差、倍数性、交雑の影響もあるため、外見だけでは判断が難しい魚です。

そのため、形態だけでなくDNA分析なども含めて、系統的な関係を考える必要があります。

フナ属魚類の起源と日本列島での広がり

フナ属魚類の起源は、
日本列島が現在の形になるよりも古い時代にさかのぼると考えられます。
コイ科魚類は中生代白亜紀にローラシア大陸南部で誕生し、
その後、新生代新第三紀の東アジアでフナ属が生まれたとされます。
当時の日本列島はユーラシア大陸と陸続きで、
日本海周辺には淡水魚が分化しやすい環境がありました。
フナ属魚類が日本列島で繁栄したのは約400万年前ごろで、350万〜230万年前にはコイよりもフナが多く見られるようになったと考えられます。

フナの分類と世界のフナ類


世界のフナ類を大きく見ると、
ゲンゴロウブナ、ヨーロッパブナ、そして極東地域に分布するフナ類に
分けて考えることができます。
極東地域のフナ類は系統関係がある程度調べられている一方で、
種や亜種のどの段階まで分化しているのかは不明な点が多く、分類整理が難しいとされています。
日本でも独立した集団が確認され、便宜的に亜種レベルで扱われるものがありますが、形態だけでは判断しにくい個体も多く、分類は現在も整理途中です。
| 大きな分類 | 代表例 | 特徴 |
|---|---|---|
| ゲンゴロウブナ | ゲンゴロウブナ | 琵琶湖水系と関係が深く、ヘラブナの原種 |
| ヨーロッパブナ | ヨーロッパブナ | 中国北部からヨーロッパ方面に分布 |
| C. auratus 種群 | ギンブナ、キンブナ、ナガブナなど | 極東地域に広く分布し、分類整理が難しい |
フナの系統を調べる主な方法
フナの系統を調べるには、見た目だけでなく、体の特徴、染色体の倍数性、筋肉中のタンパク質、DNA情報などを組み合わせて考える必要があります。
特にフナ類は外見がよく似ているため、ひとつの方法だけで判断するのではなく、複数の解析方法を組み合わせることが重要です。
倍数性判定

フナ類の中には、二倍体だけでなく三倍体の個体(ギンブナ)も見られます。
そのため、系統解析ではまず倍数性を判定することがあります。
赤血球を用いた顕微蛍光測光法により、DNA染色液であるDAPIで染色し、
蛍光顕微鏡などを使って細胞あたりのDNA量を比較する方法が紹介されています
- サンプル血液(99%エタノールで固定)をスライドグラスの右半分に滴下し、
同時に二倍体の金魚の血液(コントロール用)をスライドグラスの左半分に滴下した。
(この際サンプル血液とコントロールが混ざらないように慎重に行う) - エタノールが完全に蒸発するまでスライドグラスを風乾し、
DNA染色液であるDAPI染色液中において30分~60分間染色した。 - 染色後、蛍光顕微鏡及び顕微蛍光装置を用いて赤血球1細胞あたり約20細胞ずつ行い、
それぞれの平均値を比較することで倍数性を決定した。

これにより、二倍体と三倍体(ギンブナ)を識別し、
フナ類の繁殖様式や系統の違いを考える手がかりにできます
形態測定


形態測定では、背鰭分岐軟条数、臀鰭分岐軟条数、脊椎骨数、鰓耙数などを調べます。
背鰭分岐軟条数、臀鰭分岐軟条数、脊椎骨数
軟X線を用いてレントゲン撮影された骨格写真を基に計数を行います。
鰓把数の計数
右側第一鰓把について行い、魚体から切除した右第一鰓弓をアリザリンレッド染色液で染色後、実体顕微鏡下で計数を行った。
(3mm未満のサンプルについては幼魚のために計測並びに計数が困難であるため、形態測定は除外する)

鰓耙数が100を超える個体はゲンゴロウブナ、
鰓耙数が30本で背鰭分岐条数が12本の個体はキンブナと同定できることが示唆されています。

筋漿タンパク質の電気泳動

DNA分析が広く使われる以前には、筋漿タンパク質の電気泳動もフナ類の分類に利用されてきました。
筋漿タンパク質とは、
筋肉の中にある筋原繊維の間にあるタンパク質である。
そこに電流をながすとタンパク質や酵素が染色され、バンドが出現する。
そのバンドは種によって異なるので、フナ属魚類の分類に使用できる。
バンドの形状は6種の染色濃度の濃淡からなっており、
フナの泳動像はⅠ〜Ⅳ型に分類することができます
これによりキンブナ・オオキンブナ、ギンブナ、ゲンゴロウブナ、ヨーロッパブナなどの違いを考える手がかりになると説明されています。
| フナの泳動像 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| Ⅰ型 | キンブナ、オオキンブナ、 ニゴロブナ、ナガブナなど | 第1バンドが濃い |
| Ⅱ型 | ギンブナ | 第5バンドが著しく濃い |
| Ⅲ型 | ゲンゴロウブナ | 第1〜3バンドを欠く |
| Ⅳ型 | ヨーロッパブナ | 第2バンドをもち、 コイの泳動像にも似る |

mtDNA分析

mtDNA分析は、ミトコンドリアDNAを用いて系統関係を調べる方法です。
フナの鰭小片からDNAを抽出し、電気泳動で増幅バンドを確認する手順が紹介されています。
- 2倍体個体と3倍体個体をmtDNA分析に供した。
- フナの鰭小片(99%エタノールで固定)をチューブにいれる。
- TNES-UREA溶液、ProteinaseK(鰭を溶解する薬品)を加える。
- 一晩インキュベート(保温)し、完全に鰭を溶解する。
- 溶解後、DNAの抽出を行う
(100V、10分間電気泳動し、トランスイルミネーターで増幅バンドを確認した)
ミトコンドリアDNAは母系の系統をたどる手がかりになるため、
見た目だけでは判断しにくいフナ類の地域系統や由来を調べるうえで重要な方法です。
系統樹の作成


抽出したDNAデータをもとに、
近隣接合法、最尤法、最大節約法などの方法で系統樹を作成します。
系統樹は、フナ類同士がどのような関係にあるのかを視覚的に示す図です。
これらの方法で作成した系統樹は細部に違いがあるものの、共通する6つのクレードが見られたとされています
- キンブナ、二ゴロブナが属し、形態形質より琵琶湖で採集された個体がニゴロブナに近いと推定された。
- 三重県産の2倍体個体のほとんどがこのクレードに属した。
- 五島列島福江島産の個体について、2倍体と3倍体全ての個体がこのクレードに属した。
- 2倍体と3倍体の2種類構成されたが、2倍体個体はキンブナと同定されている。
- 2倍体個体とゲンゴロウブナにより構成された。2倍体個体はゲンゴロウブナと同定されている。
- キンギョとヨーロッパブナにより構成された。
DNA分析から見えてきたフナの系統

フナ類は日本各地で普通に見られる魚ですが、その由来や世界的な系統関係は長く不明な点が多く残されていました。
琉球列島や台湾を含む31地点800個体のミトコンドリアDNAを分析し、さらにユーラシア大陸各地のDNAデータを加えて解析した研究が紹介されています。
その結果、世界のフナ類はゲンゴロウブナ、ヨーロッパブナ、C. auratus 種群に整理できること、さらにC. auratus 種群は大きく2つの系統に分かれることが示されています。
日本列島固有系統と大陸・台湾・琉球列島系統
DNA分析によって、C. auratus 種群には約400万年前に分かれた2つの大きな系統があることが示されました。
| 大系統 | 含まれる系統 |
|---|---|
| 日本列島固有系統 | 本州系統、本州+四国系統、九州系統 |
| 大陸・台湾・琉球列島系統 | ユーラシア大陸全域系統、琉球列島系統、台湾系統、中国系統 |
一方は日本列島に固有の系統で、本州系統、本州+四国系統、九州系統に分かれます。
もう一方は大陸・台湾・琉球列島に関わる系統で、ユーラシア大陸全域系統、琉球列島系統、台湾系統、中国系統に分かれるとされています。
種類名と遺伝的系統は一致しない






重要なのは、日本列島の地域固有系統が、
キンブナ、ギンブナ、ナガブナ、ニゴロブナ、オオキンブナ
といった従来の種類名と必ずしも対応しない点です。
つまり、見た目や名前で分けられてきたフナの分類と、DNA分析で見えてくる系統関係は、
完全には一致しない場合があります。

これは、フナ類の分類が難しい大きな理由のひとつです。
三倍体性とクローン繁殖

フナ類の系統を考えるうえで、三倍体性も重要です。
フナの中には、ギンブナのように雌だけでクローン発生により繁殖する三倍体個体がいます。
このような三倍体のフナが特定の種類だけではなく、
見出されたすべての系統で確認されたと説明されています。

そのため、三倍体性は一部のフナだけの特徴ではなく、
フナ類全体に関わる性質として考える必要があります。

金魚は中国系統のフナに近い

DNA分析からは、金魚の起源についても重要なことがわかります。
金魚は中国系統に近縁であり、すべての金魚は中国系統の一員であることが確認されています。
日本で作られた金魚品種も、もともとは中国のフナをもとに作られた可能性があるとされています。

フナと金魚の関係を考えるうえで、系統解析は非常に重要な手がかりになります。
フナの系統分類からわかること
フナの系統分類を調べると、見た目だけではわからない関係が見えてきます。
従来の分類では、体型や鰓耙数、背鰭の軟条数などが重要な手がかりでした。
しかし、DNA分析や筋漿タンパク質の電気泳動、倍数性判定を組み合わせることで、地域ごとの系統や、金魚との関係、三倍体性の広がりなども見えてきます。

このように、フナの分類は単に「種類を見分ける」だけではありません。
進化の歴史、地域固有性、繁殖様式、外来系統との関係などを含めて考える必要があります。
まとめ

今回は「フナの系統分類」について解説していきました。
フナ類は身近な魚ですが、世界的に見ると系統関係がとても複雑な魚なんですね。

はい。
ゲンゴロウブナやヨーロッパブナ、C. auratus 種群など、
大きな分類の中にも地域ごとの違いがあることがわかりました。

そうですね。
形態測定や筋漿タンパク質の電気泳動、倍数性判定、mtDNA分析、系統樹の作成など、
複数の方法を組み合わせることで、フナ類の関係が少しずつ見えてきます。

見た目だけでなく、系統という視点から見ることで、
フナの分類や進化をより深く理解できるんですね。
参考文献
Biogeography and evolution of the Carassius auratus-complex in East Asia
Mikumi Takada, Katsunori Tachihara, Takeshi Kon, Gunji Yamamoto, Kei’ichiro..
淡水魚類地理の自然史―多様性と分化をめぐって
出版社/メーカー: 有限中間法人 北海道大学出版会
発売日: 2009/12 メディア: 単行本


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