産卵の準備
分離飼育
採卵に使用する親魚は、前年から飼育してきた二年魚(三歳魚)を親魚として使用する。3月初旬頃に養殖池を別にして、分離して飼育する。分離飼育をしない場合、産卵時期がくると随時産卵をしてしまうので、十分な準備や経験がないと採卵が失敗しやすくなるためである。採卵計画に沿って数を決める。一尾あたりの産卵数は10cm前後のもので、5000粒ぐらいである。早い時期から水換えをして魚体を刺激したり環境を変えたりすると、産卵が早くなる傾向がある。
雌雄の選別
1)同じ条件で飼育を行った場合、主として体形が大型なものが雌であり、小型で鰭が長いものが雄である。
2)産卵期が近づくと、雌は卵巣が成熟するので、腹部が横に張り、体の表面がなめらかだが、雄は腹部が張らず体表面が粗雑になる。
3)雄の胸鰭や鰓蓋、鱗などに追星という角質の白点があらわれるので、時期になると手をふれただけでも容易に判別できるようになり、腹部(生殖孔付近)を軽く圧するだけで精液を出すようになる。
早い時期(未熟)の判別は難しいが、生殖孔によって判別する。雌の生殖孔は円形に近く、やや突き出しているが、雄では、楕円形で突き出ていない。
魚巣
金魚の卵はほかのものに付着する性質があり、ほかの物に産みつける性質があるから、採卵には卵を産みつける魚巣を用意する必要がある。
関東地方では天然の金魚藻だが、これも近年は土地の開発により、自然繁殖の場所も少なくなり、採集は困難となってきている。そのため、産卵計画に従い使用予定量を確保する手配を行う。
近年では、保存のきくシュロ皮、柳の根、ヒゲノカズラ、ポリエチレンテープを加工したもので代用する場合が多い。アクの出るものは、一度煮沸または水に侵漬してアク抜きを行い、適当な長さにそろえて束ね、取り扱いを便利なようにしておくとよい。
産卵時、魚巣に付着する卵は50~60%位であり、残りは付着せずに池の底に落ちて死滅する。そのため、水底にも敷巣を作成しておくと落下卵も付着する可能性があがる。
ミジンコの発生準備
孵化稚魚の餌付け飼料としては、天然飼料であるミジンコに勝るものはないとされ、これの発生の多少によって仔魚の成長は左右される。
ミジンコは単為生殖で一回に50~60個の卵を生み、6~7日で成虫となり、3~4日ごとに連続して産卵する。水温が適正でない場合(15~25℃以内)や水中の栄養分が不足したり水質が悪化したりすると、オスミジンコが生まれて交尾して冬を生んで繁殖が停止してしまう。
この冬卵はある程度の低温や乾燥にもよく耐えて環境条件がよくなると、また繁殖をはじめる。
ミジンコの繁殖には採卵予定日の15~20日以内にあらかじめ池水を排除し、消石灰を散布し養魚池の消毒と雑魚の駆除を行い、蓄積している有機物の分解を促すようにする。
その後、肥料(ミジンコの餌)を散布する。一般には人糞、尿、鷄糞、醤油粕、米ぬか、堆肥などである。量は使用する肥料の成分、養魚池の新旧、その底質、水質、水深、水保ちの良否、気象条件などに異なるが、池底の砂礫質のところでは多く、泥質のところでは少なく、加減する必要がある。
肥料をまいた後は日光を当てて4~5日後に池の水を30cmくらい張り溜めておくと、水の色が褐色となり、4~5日もたてば緑色を帯びてくる。これは微細藻類や原生動物や藻類が繁殖したので肥料の効果が現れてきたのである。さらに養魚池の深さに応じて注水すると、多量にミジンコが発生してくる。この場合も、降雨などによる池水の増幅も考慮して水位を決める。
この状態になったら稚魚を放流する。ミジンコが少なすぎると、植物プランクトンの量が多くなりすぎて気泡病の原因になり、へい死してしまう。
養殖魚の採卵について
親魚の放養
金魚の産卵期は通常は春一回であり、水温が15℃以上、25℃くらいまでの間で行われるが、適水温は20℃内外である。したがってこのくらいの水温が安定する時期で、4月上旬~6月中旬が産卵期といえる。
産卵はこの期間中7~10日くらいの間隔で数回行われ、この回数がますにつれて不良魚が増す傾向がある。
まず天候の定まった暖かい日が続くのを見定めてから採卵日を決める。それまでに産卵池の池水を新しい水に取り替える。
この場合、分離飼育していた雌雄の親魚を取り上げて選別を行う。使用するものはメス1尾にたいしてオス1尾の割合で産卵池に放養する。通常はこの割合で十分だが、オスを2~3匹使用する場合もある。できるだけ体型をそろえて、同年齢を 使用することも必要だと思われる。以上の放養作業はできたら午前中に行うようにして、その日のうちに少量の餌を与えるようにする。
魚巣の設置
親魚の放養を行ったら着卵させるための魚巣を設置する。あらかじめ準備し束ねてあるヒゲノカズラ、シュロ皮、柳の根など沈降するものは、なわで吊り、水面下に浮かべておく。
藻類やポリエチレンテープなどの加工した物など水に浮く物は、なわで張るか、板で枠を作り、産卵池の角に浮かべて流れないようにして均等に散らしておく。
落下卵を着卵させるための敷巣を設置する場合、水面と平行して水深30cm位の所に沈める池底の泥に着かないようにする。
産卵
産卵は翌日の早朝(日の出から)から午前中にかけて行われるから、随時魚巣の着卵状態を点検して、魚巣の表裏を手返しして均一に付着させることが必要である。
これは、孵化池及び孵化率に関係してくることであり、着卵が少量で取り上げた場合、魚巣が多くなって、叩き池が多くなって、ビニール孵化槽使用の場合では、薄く並べられないことがあり、また多く着卵した場合には卵がひとかたまりとなり、窒息死して死卵が多くなり、水生菌も繁殖して健康な卵までもが犯されて孵化率が悪くなるので、前記手返しなどをして魚巣の量を少なくすることにより十分手をかけられることになる。
また、着卵はできるだけ短時日のものをまとめて、孵化池に収容することも必要である。このとき、マカライトグリーン溶液の10000分の1の溶液に20~30秒程度浸けると水正菌の蔓延を防止し、孵化率を高めることができる。また、親魚の放養が遅くなったり、夜に冷え込んだりすると産卵が翌々日に延びることがある。
孵化について
孵化の準備
着卵された魚巣は、孵化池に運び束ねてある魚巣をとき、薄く並べて竹を重しにして魚巣を水面下2~3cmくらいの深さに保つ。ヒゲノカズラ、柳の根を、シュロ皮などの沈むものは、水面に平行して浮かすようにするが、これによっても方法があり、孵化池としての専門コンクリート池を使用する場合、ビニール枠組の水槽を稚魚池に浮かべ、そこで行う場合、また、直接稚魚池で行う場合などがある。
コンクリート池使用の場合
コンクリート池の使用する場合は、2~3日前から水を張っておく。普通3.3~3.6平方メートル位の面積で、収容卵数は5万~10万粒、できれば弱めにエアレーションを行えば理想的である。また、雨天の場合や気温低下の場合には覆いをして防いだり、日光の直射が激しいときには遮蔽して水温の上昇を防ぐことも必要である。
孵化槽使用の場合
孵化槽使用の場合は、杉板割の幅15cm、厚さ1.5cm位の物を使用して、よこ4mたて1.5mの木枠を作り、ひしげないように四角に張りをつけ、中間にも板を数枚うつ。
これに2m幅のビニールをたるみをもたせて張り、その端に同じ長さだけ余分につけて稚魚池に浮かべて水を張り、沈まないように竹などをたてて吊って固定する。
直接稚魚池使用の場合
直接池で孵化させる場合、池が広いために風で魚巣が散らないように固定し、通路など見やすい岸に孵化場所を作る。
孵化
孵化に要する日数は、水温によって異なり、水温20℃前後で4~5日で孵化する。孵化当初の稚魚は、魚巣や池壁に付着してじっとしているが、2~3日位でさい嚢を吸収して泳ぎ始める。そのため、魚巣を暖かい日の日中にすすぐようにして取り除き、叩き池などの場合には孵化後5日くらいで稚魚池に放養する。
この場合、固めに茹でたゆで卵の卵黄を布で包み、水に揉みだしてジョーロなどで均一に池に散布して与え、体力をつけてから夕方あらかじめ準備しておいた稚魚池に放養する。また、この場合、稚魚だけをすくいとることは難しいので、目が細かいカゴを作り、あらかじめ池の水位を減らし、稚魚が池の水とともに汲み取り放養を行う。
適温の範囲は17~25℃である。適温範囲にはずれて飼育すると奇形な個体が生まれやすい。
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