今回は本館研究戦略センターの佐々木史郎が書かれた「生き物博物誌」からロシアでのフナの食文化について解説していきます。
日本以外の漁業や食文化はなかなか見られないですので、日本と比較して違いを楽しんでみましょう。
ロシアに生息しているフナの種類

水田に広がる日本では、フナはコイと並び用水路や近くの湖沼、河川で簡単に取れる最も身近な魚の1つでもあります。
しかし、この魚が住んでいる場所は日本だけではなく、外国にも生息しています。
フナ属と呼ばれるコイ科の魚はヨーロッパから中国、日本までと、ユーラシア大陸の中部や北部を横断するように広く分布しています。
ロシアに生息するフナは一般的にはアムール川などに生息しているギベリオブナ(アムールブナ)が多いです。
西側に行くとヨーロッパブナも見られるそうですが、今回はギベリオブナになりますね。
ロシアのフナ漁を行う場所
日本は稲作という文化があり、田んぼが存在します。
フナも田んぼに遡上して産卵をするため、フナが田んぼやその近くの用水路で見られる事も少なくないです。
一方、ロシアでは稲作はないので、田んぼや用水路があまり存在しません。
そのため、ロシアではフナは湖での漁が行われることが多いです。
エヴォロン湖

佐々木さんが調査しているロシア局、東地域のアムール川地域にもフナを名産としている場所があります。
それがアムール川の支流の1つであるゴリン川の流域にコンドンと言うナーナイ(極東ロシアの先住民族の1つ)の村があります。
その村の前を流れる河川を約40分ほど歩いてさかさぼると、「エヴォロン湖」と呼ばれる広大な湖が現れます。そこがフナの一大産地になります。
かつてのソ連の時代には「エヴォロンのフナ」と言えば、モスクワの高級レストランにも名の通っていたほどに良質な魚介類の食材であったとされています。
エヴォロン湖の精霊に捧げる儀式

エヴォロン湖はコンドン村のナーナイにとっても「聖地」になります。
この湖の西側の岸辺にはカダハチャンと呼ばれる石場があり、「湖の精霊」を奉る場所といわれています。
精霊を奉るといっても、湖を訪れる際、そこでとれた魚を岩場にて調理し、1杯のウォッカと魚料理のひと切れを岩場に捧げて、大量と人々の幸福を祈願します。 後は人間が料理を平らげをウォッカを飲み干すだけにはなります。
そして、人々が精霊に捧げて食べる魚というのがはもっぱらこの湖でとれたフナなのです。
浅瀬ならではの漁
エヴォロン湖のフナ漁には夏の漁と冬の漁、2種類存在しています。
夏の漁

夏は、フナが湖の島状に浮かぶ水草の下に隠れていることが多いです。
そこで漁師は船が隠れていそうな湖の周辺に半円状に上に網を張ります。その後、罠を張っていない側から水面を叩いて魚を脅かし、魚を網に追い込みます。


三方湖の叩き網漁と似ていますね
なお、ここの湖はものすごく広大ですが湖の真ん中まで行っても、腰ぐらいまでの水深しかないほどの遠浅で有名です。
したがって、ここの漁師たちは湖に網を張った後は、一旦ボートから降りてから、湖を歩いていき魚を網へと追い立てていくのです。

ちなみに網は刺し網なので、小さな魚は網にかかりません。
フナも体長30cm程度の大物を中心に獲るそうです。
冬の漁

この地方の真冬は厳しく、氷点下40度を下回るほどの極寒地となります。水深が浅いエヴォロン湖の場合、ほとんど湖の全面が水底まで凍ってしまいます。
さすがに寒さに強いフナでも、湖が凍ってしまっては生きていられません。
そのためフナは水深が深くて真冬でも水底でも凍らない部分が残る流れのある川の方へと移動していきます。
その習性を利用して、川の付近で凍っている氷に穴を開けてから、氷の下に網を張り、そこで越冬しているフナを捕獲するのです。
冬のフナは基本的にはエサを取らないので、肉には臭みがなく、旬で最も良い肉質状態になるといわれています。

そのため、モスクワの高級レストランで人々の舌を楽しませていたのは、
この「寒鮒」になりますね。
現地民のフナの調理方法

コンドンのナーナイ達のフナ料理には少々奇妙なところがあります。
まずフナを湖の水で洗い、ナイフで鱗を取り除いてから、腹を裂き内臓を取り出します。
続いて肋骨に沿ってナイフで丹念に切れ目を入れていくのです。
切れ目は魚の両端に入れるのは、「火を通りやすくするため」と「細かい骨を切るため(骨立ち)」などと現地民からは説明をしているそうですが、本当のところはよく分かっていませんね。
そのように処理された魚を鍋へ入れてから、水を入れてゆっくり茹でるだけなのであります。

日本でいう「こぐい」や「あら汁」に近い調理方法ですね。

このフナ料理の味付けは塩と胡椒と若干の香草だけとシンプルです。

流石に味噌は使わないんですね
肝心な料理の味はというと繊細ではありませんが大味でもなく、どちらかと言えば淡白な味付けになります。
夏場にはフナの泥臭さが若干ありますが、そこまで気になるほどではないですね。
そして、寒鮒になるとはそれが全くなくなります。
筆者は箸を使って食べたそうですが、ナーナイの人々は手を使い骨だけを残して食べていたようです。
また、フナの骨は硬くて丈夫でさらに形も面白いため、残った骨は子供のおもちゃとして使われています。
参考文献
生き物博物誌 【フナ】 精霊に捧げ食べる
本館研究戦略センター 佐々木史郎
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