水族館における生息環境展示|水族館コラム

水族館コラム

今回は生息環境展示について解説していきます、
水族館の展示において近年増えている「生息環境展示」、まるで自然の中にいるかと感じさせてくれるような展示ですが、かなり難易度が高い展示なのです。

詳しくみてみましょう。

生息環境展示とは

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生き物の野生での生息環境を再現した展示手法のことです。

地理学的展示をさらにピンポイントで示しており、ゲンゴロウブナは琵琶湖の表層付近、オオキンブナは淀川の下流域というように、魚たちををその生息地ごと展示する方法が「生態的展示」です。

現在、水族館でも多く採用されるようになり、比較的新しい展示方法です。

展示目的という観点から見ると、分類学展示は博物館的であり、地理学的展示はジオラマ的と言ってしまった方がいいでしょうか。生物は動くよりも静止しているほうが、その展示目的にかないます。

では、生態的展示はどうかというと、自然環境を再現して展示するため、魚たちは自然に近い動きをするはずです。

ただ、その魚たちにとって四六時中動いているかというとそうではなく、むしろ動かないことや物陰に隠れている事が多く、実態としては、動物の動きよりも”佇まい”をみせる展示方法になっているのです。

生息環境展示が難しい理由

生物が隠れてしまい見えなくなる

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これらの展示方法には、来園者の側から見たときに、共通の難点があります。
生物たちを見つけるのが難しいことです。

湖や川を覗いても、お魚は見えやすいように泳いでいませんね。いつも隠れているお魚も多いですし、見える魚でも人影に気づけば見れてしまいます。

先生
先生

生息環境を再現すると、見えないところに逃げたり隠れたりしてしまいます。

女の子
女の子

確かに私たちは生息環境ではなく展示している魚を見にきていますからね

病気の感染リスク

基本的には水族館では、生き物たちができるだけ死なないように飼育管理をしています。

生息環境を再現するためには、そこに入っている植物や接触動物(エビやプランクトンなど)も必要になります。

植物や接触動物は、魚とは大きくかけ離れた生き物で、魚がかかる病気にはかかりません。
しかし、病原菌や病原中、それらの卵などを付着させてきて水槽に入ってしまいます。

病気を倒すためのお魚用の薬などを使うと、植物や接触動物は死んでしまいます。

先生
先生

自然界では、それらの病原を食べる生き物がいたり、十分な密度に下げるほどの膨大な水と流れがありますからね

男の子
男の子

自然界の完全再現は難しいんですね

生息環境展示へのすりよせ

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このような点からも、あまり水族館での生息環境展示を行なっている場所は少ないですね。

強いていうならば、水槽の周りを義岩で再現したり、水槽内に流木や杭などを催したり、
水槽上部にその地域で生えている植物を植えていてジオラマ風にアクアテラリウムを用いているコーナーはよく見かけます。

いずれにせよ、日本の水族館ではあまり生息環境展示を行なっている場所は多くないように感じます。

淡水魚の場合は実際に水族館近場の水域に行けば済む話ですからね。水族館自身もビオトープのようなものを作るという感じで済んでしまします。

そのため、水族館側も完全な生息環境展示を行なっている場所はなかなか少ないかもしれませんね。

先生
先生

そもそも生息環境展示というもの自体はどちらかというと、水族館よりかは動物園などでよく採用されていることが多いですね。

フナにおける生息環境展示

フナの生息環境展示はかなり難易度が高いです。
まず、フナが生息している環境ですが、用水路のような環境を想像してみましょう。

基本的には水草がたくさん生えた場所に隠れていることがおおいです。
そんな水草にはスジエビやヌマエビが生息しており、水底にはドジョウや貝が砂の中もぐっています。

再現するためには大量の水草が必要です。
ただ、水槽内にたくさん水草が生えた水槽を見て誰が楽しいでしょうか。

また、フナは雑食性なのでコイほどではないものの貪食です。
水槽に植えてある水草や同居させる甲殻類や貝類はだいたい捕食してしまうからですね。

そんな環境を再現させるのはなかなか大変なんですね。
かくいう私も飼育水槽を生息環境をテーマに水草を植え、エビや貝、メダカを入れていましたが、ことごとくフナに食い荒らされてしまいました。

うちのフナ
うちのフナ

どれもうまかった

結局、長期的に生息環境展示が難しいため、フナを飼育展示している水族館の場合は
水草を使用しない流木や岩のみの展示や水草を使用しても摂食されにくい「アナカリス」などを採用されたものが多いのです。

生息環境展示をしている水族館例

個人的にそれなりに生息環境展示をしていると感じる水族館があります。
それが琵琶湖博物館のヨシ帯水槽とカワスイの多摩川水槽です。

アクアトトぎふの中下流の魚

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この水槽では近くを流れる長良川の中下流域を再現しています。
フナだけでなく貪食なコイや草食系のソウギョもいるため、水草などはほとんど入れることが難しいため、水槽内は岩や流木、土管しかありません。

また、壁面に使用している岩も通常の義岩とは異なり、実際に使用しているような独特の丸みのある岩を採用しています。

また、水槽よりも上部には近隣環境の植物が植えられており林のような環境です。
さらには水鳥も展示しています。

先生
先生

いわば、アクアテラリウムに近い感じでしょうかね。

新しい生息環境展示|カワスイの多摩川

次にカワスイの多摩川ですが、こちらも上流〜下流域のコーナー展示は一味違います。

水槽自体はフナの他にコイやナマズなどがおるため、アクセサリー自体は流木程度ですし、壁面は義岩などを使用せずに全面アクリル水槽です。

女の子
女の子

それじゃあただの地理学的展示じゃないですか

このコーナーのすごいところは周りの環境が全て生息環境を模しているということなのです。
壁や床、水槽を置かれている周りが自然に近い色合いで再現しており、さらには生息環境に近い造花や造木を植えています。

さらには水槽の背景には実際に多摩川の風景をプロジェクターで投影していたり、鳥の囀りや自然音を流してあたかも自然の中にいるかのようにしているのです。

また、水槽内の照明も色味を工夫していて、青味ががかった照明にしたり、夕方には赤みを入れたりととことん自然環境を再現しています。

確かに水槽だけでは生息環境を完全に再現することは不可能かもしれませんが、生息環境を再現するためには何も水槽だけではないということですね。

むしろには水槽では魚の姿を見たいですから、極力アクセサリーなどは控えめでも構わないくらいです。

まとめ

ということで、今回は生息環境展示について解説してきました。

フナ飼育においても生息環境展示をしていた方が楽しいですが、長期的に見ると管理が大変です。
やはり自然界を水槽内で再現することは難しいなとは感じますね。

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