
今回は「魚の名前」について解説していきます。
普段なにげなく口にしている名前ですが、そこには思いがけない物語があるんですよ。

えっ、魚の名前ってただの呼び方じゃないんですか?

そう思われがちですが、
実は名前には人々の暮らしや歴史が映し出されています。
今日はそんな「名づけ」の不思議を一緒に見ていきましょう。

なるほど!
それなら、どんな話が出てくるのか楽しみです。
魚の名前はどう決まったのか?──命名の歴史と科学の営み
私たちが普段、何気なく口にしている「フナ」「コイ」「アユ」といった魚の名前。
その裏には、地域の暮らしや文化、そして近代科学の営みが重なり合った“命名の物語”があります。

江戸から明治にかけての博物学の発展や、ヨーロッパの学者たちの影響、
さらに現代のDNA解析による再分類に至るまで、魚の「名づけ」の歴史をひも解いていきましょう。
魚の命名のはじまり──地方名から和名、そして学名へ

かつて魚の名前は、各地域の人々が自然との関わりの中で生み出した「俗称」でした。
色や形に由来するもの(「アオウオ」「クロダイ」)、漁法や道具にちなんだもの(「アユ=鮎=夏にとれる魚」)、さらには信仰や縁起に基づくものまで、実に多様でした。
たとえばフナは、関東では「マブナ」、関西では「ヒラブナ」と呼ばれ、同じ魚でも地域によって呼び名が変わります。

こうした「地方名」が日本の魚文化を支えてきました。
しかし18世紀、スウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネが「二名法」を提唱。
属名+種小名というラテン語による学名体系が誕生し、世界共通のルールで生物に名前を与える仕組みが広がります。

これが学名の始まりでした。
テミンクとシュレーゲル──日本魚類命名の先駆者

『Fauna Japonica』という偉業
19世紀、日本の魚に初めて本格的に学名を与えたのは、オランダの博物学者コンラート・テミンクとヘルマン・シュレーゲルでした。
彼らが編集した『Fauna Japonica(日本動物誌)』は、長崎・出島に集められた標本をもとに日本の生物を紹介した大著です。
記載されたフナ類
ギンブナ (Carassius auratus lungsdorfii)
ニゴロブナ (Carassius auratus grandoculils)
現在も使われる学名が記されています。
銅版画による緻密な図とともに発表されたこれらの学名は、日本の魚を世界の学問体系に接続する扉となりました。
学名に込められた敬意──命名のしるし
学名には、単なる記録以上の意味が込められることがあります。
「buergeri」
日本に滞在した博物学者ブェルガーへの献名
「japonicus」
「日本に由来する」という地名由来の表現
つまり、学名とは「誰が発見したか」「どこの土地と関わるのか」という記録でもあり、自然への敬意や人間関係を刻むものでもあるのです。
日本文化と魚の名づけ

一方で、日本には独自の魚名文化がありました。江戸時代の本草学書『和漢三才図会』や浮世絵には、多くの魚の和名や呼び名が記録されています。
「アユは年魚(1年で一生を終えるから)」「ウナギはむかし“むなぎ=胸長”と呼ばれていた」など、名前の由来そのものが生活文化の中にありました。
このように「和名」と「学名」は、それぞれが別の角度から魚を見つめ、今に至っています。
変わりゆく学名──DNA解析の時代へ

「一度決まったら終わり」ではないのが学名の面白いところです。
20世紀まではヒレの数や骨格といった形態的特徴に基づいて分類が進められてきました。
ところが21世紀に入り、DNA解析が一般化すると「見た目が似ているけれど遺伝的に異なる種」「逆に姿は違っても同じ種」といった再発見が次々に起きています。
たとえば2022年、ラオスで新たに記載されたフナの仲間 Carassius praecipuus。かつては既知の種と混同されていましたが、遺伝解析により独立種と認められました。

このように、命名の物語は現在も進行中なのです。
命名する権利とは?──「誰が名づけるか」


学名には「命名権(nomenclatural authority)」があり、命名者の名前と発表年が学名に併記されます。
例:Carassius cuvieri Temminck & Schlegel, 1846
これは科学的権威の証明であると同時に、「誰が世界をどう記述するか」という文化的・政治的問題もはらんでいます。
植民地時代、アジアや日本の魚がヨーロッパ人によってラテン語の名で命名され、現地の文化や言葉が顧みられなかった歴史は、その象徴的な一例です。
現代の命名と倫理

今日では、地域文化や先住民族の知識を尊重する命名が増えています。
例:Rana okinavana(沖縄に由来するカエルの学名)
また「統合的分類学(Integrative Taxonomy)」という考え方に基づき、DNA・形態・生態・地理を総合して分類を見直す取り組みも進んでいます。

つまり、命名は単なる学問の形式ではなく「自然をどう理解し、どう記録するか」という倫理的な営みでもあるのです。
おわりに──名前は自然との出会いの記録
魚の名前。それは単なるラベルではなく、人間が自然と向き合い、記録し、物語をつむいできた痕跡です。
江戸の庶民が「マブナ」と呼んだ名も、ヨーロッパの学者が「Carassius auratus」と記した名も、同じフナを見つめた“出会いの瞬間”から生まれています。
「名前を知ることは、その魚の物語を知ること」
フナをはじめとする魚の命名の歴史には、観察の工夫、文化の重なり、時代ごとの価値観が映し出されています。
私たちが今日使っている一つひとつの名前。その背後には、過去から現在へと続く長い物語が息づいているのです。

ということで、今回は「魚の名前」について解説していきました。
身近な呼び名の裏にも、さまざまな背景があるのです。

普段あたりまえに呼んでいた名前が、
こんなに奥深いものだと知って驚きました。

名前を知ることは、その魚の物語を知ることにつながります。
これから魚を見るとき、少し違った視点で楽しめると思いますよ。

はい!
これからは名前にも注目しながら魚を見てみます。


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