【分類学】ゲンゴロウブナの特徴とヘラブナの起源

生物学

今回はカワチブナ(ヘラブナ)の起源について解説して行きます。

カワチブナ(ヘラブナ)がゲンゴロウブナであると言うのはよく言われていますが、
他のフナが起源である可能性はあるのか?詳しく見て行きましょう。

序章

ヘラブナ及びカワチブナとゲンゴロウブナは、形態・習性が極めて酷似し、区別が困難です。

詳細にみると、習性ではカワチブナが冬期には水無の状態で輸送できるのに対し、ゲンゴロウブナでは不可能である等いくつかの点で差があります。

カワチブナの由来に関してもゲンゴロウブナと地ブナの交雑やゲンゴロウブナの家畜化されたもの等の説がありますがいまだに定説がありません。

中村守純博士によるとカワチブナは琵琶湖で交雑されたゲンゴロウブナが、飼育環境で歴代選抜され純化した、
いわば純粋のゲンゴロウブナ化されたものという見解をとられていますがこれに関しても学問的な解明は容易ではありませんね。

今回はゲンゴロウブナがフナの分類学においても極めて特異な立場にあることを明らかにし、間接的な方法でカワチブナの起源について解説します。

ギベリオブナとの比較

それについてはゲンゴロウブナの特異性、特性を明らかにする必要がある。

ゲンゴロウブナは日本固有種で、アジアやヨーロッパに生息しているフナの仲間の中にはゲンゴロウブナ型に相当する種類はみられません。

そのため、今回はギンブナにちかい体型のギベリオブナと対比して特徴を検討します。

ゲンゴロウブナはプランクトン食である特徴、すなわち腸が長く、鰓耙数が多く、止水遊泳に適した体高の高い点について対比してみます。

鰓耙数

まずギベリオブナの鰓耙数は最高で50本前後です。

ハリトノヴァ氏の飼育実験では体高の高いものは体高が低い個体よりも鰓耙数が多いことを証明されました。
その中でも体高の高い体長17.5cmのギベリオブナが鰓耙数53〜54本くらいになります。

これに対してゲンゴロウブナでは100本以上と約2倍以上の鰓耙数をもちますが、
このことはゲンゴロウブナがよりプランクトン食として特化していることが分かりますね。

腸型はギベリオブナの場合、日本産ギンブナ型とゲンゴロウブナ型の中間型を示していますが、腸長比にも同じような関係があります。

腸の長さ、体高比と食性の関係

フナの腸長

ヨーロピアンブナ
 2.1〜2.2倍

ギベリオブナ
 4.2〜4.3倍

ギベリオブナ黒龍江個体
 3.3〜5.0倍

ゲンゴロウブナ
 5.0〜7.0倍

したがってゲンゴロウブナの腸長はギベリオブよりも長いことが言えます。

これらの形質と関係づけて食性についての比較を行うと次のようになります。

ヨーロピアンブナとギベリオブナの間の食性の差はそこまでなく、両所とも雑食であり、水生植物、水生昆虫、特にユスリカなどを捕食します。

余志堂氏の見解だとギベリオブナの食性は、主に水生植物、貝類、水生昆虫等で、全般的に植物質が多いことを報じています。

しかし、ギベリオブナは自然ではこのように雑食性ですが、池での飼育するとヨーロピアンブナと異なりプランクトン食性になることが知られています。

食性もゲンゴロウブナとギンブナ型との中間を暗示するものですね。
しかしながら、ギベリオブナは北方域での摂餌環境を含めた環境の立場から、極めて適応した形態・性質を持つものと言えるかもしれません。

最近ロシアで、ギベリオブナの成長が早く、プランクトン食性であることから、
他魚類との混用、施肥による飼育に適合する品種として重要視されている。

結論

以上を総合して結論すると
ギベリオブナはこれまで報告されているアジア・ヨーロッパに生息しているフナの中で最も形質の特化が見られる種類にはなりますが、ゲンゴロウブナは更にそれより特化したフナであると言える。

ゲンゴロウブナ型が日本以外のいずれかで出現したとしても不思議ではないですね。

特に日本産フナ類と同じカテゴリーに入ると思われる中国大陸のフナ類の中からも発見の可能性があ離ますが、現在まで中国大陸、ヨーロッパ、シベリアからも報告がありません。

そして、ゲンゴロウブナが琵琶湖固有種であることは、明らかに新種を意味するものですね。

更にいうならばカワチブナの起源が、ゲンゴロウブナに密接な関係があることを証明しています。

他のフナとの交雑から出たという考えもありますが、先に述べたようにフナの腸長、腸型は種により著しく異なり、交雑の場合は蝶形の乱れが顕著の現れるのが普通です。

カワチブナの起源

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一方、カワチブナの場合は、腸型がほとんど一定していることから交雑説は否定的になります。

むしろカワチブナの場合は琵琶湖産のゲンゴロウブナを人為的な環境で飼育して、歴代選抜してきた結果であると考えられます。

ただカワチブナとゲンゴロウブナの間に形態あるいは生態的な差が少ないということは、カワチブナが歴代選抜されてきた歴史がそれほど古くないことを意味していますね。

結論としてカワチブナはゲンゴロウブナという極めて特化した種の家畜種されたものだけに、各国に例なく、産業上重視すべき魚種ということができます。

まとめ

と言うことで、今回はゲンゴロウブナの特徴とヘラブナの起源について解説してきました。

ゲンゴロウブナがいかに特異性のある魚であることがわかっていただけたら幸いです。

参考文献:カワチブナの起源についての考察
 加福竹一郎

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