今回は魚と寄生虫の関係性について解説していきます。
サバに寄生するアニサキスをはじめとして、魚に着く寄生虫は多種多様です。 ほとんどのものは無害とされていますが、人体に入ってしまうことで悪影響を及ぼす寄生虫もいます。
寄生虫をただやみくもに嫌がったり、気持ち悪がったりするのではなく、
正しい知識を身につけましょう。
寄生虫のライフサイクル
魚に寄生する寄生虫は、世界で一万種以上存在するといわれています。
それも原虫類や粘液胞子虫、微胞子虫など、1μmサイズの微細なものから、大型寄生虫の単生虫や吸虫、条虫などの扁形動物、線虫や鉤頭虫、 節足動物など多様な種がいますが、発見する 可能性が高いのは後者の大型の寄生虫になります。
寄生虫のライフサイクルは、 基本的に成虫が何かに寄生して、卵を産み、それが孵って 幼虫になり、成長して成虫となり、再び成虫が卵を産む・・・この繰り返しになりますね。
その過程の中で、幼虫や成虫が寄生する生物のことを「宿主」といいます。 たとえば幼虫と成虫で異なる宿主に寄生する場合は、幼虫が寄生する宿主を「中間宿主」。 成虫が寄生する宿主を「終宿主」といいます。
ただ、なかには中間宿主を持たないものや、 幼虫が何回か異なる中間宿主への寄生を経 て終宿主にたどり着くものもあります。
その場合は順番に第1中間宿主、第2中間宿主と呼びます。
寄生のパターンは多様ですね。
甲殻類や貝類の多くは、吸虫類などに中間宿主として利用されることが多く、魚に見られる寄生虫は、その魚を中間宿主として利用する場合と終宿主として利用する場合のいずれもあります。
寄生虫が寄生する手段
寄生虫は寄生する部位によって分類されます。 魚の体表など外側の場合は「外部寄生虫」、内臓や筋肉などに寄生しているの場合は「内部寄生虫」とされるのです。
さらに寄生している部位はヒレやエラ など、だいたいの寄生虫で決まった部位に寄生することが多いことがわかっています。 このことを「寄生部位特異性」 といいます。
とくに外部寄生虫は、寄生部位が目で見えるのでわかりやすいですね。魚の寄生虫は、生活史の大部分を水の中で送りますから、外部寄生虫の場合は水の流れなどに対抗し、宿主にしっかりと着くために、固着器官が発達しています。
たとえば吸盤や鉤などを利川し体壁に固着したり、中にはイトを出して固着するものもあります。
一方で、内部寄生生物も同様に、魚の消化管やそのほかの内臓などの壁面に吸着するために突起状の部位を持つものが多いですね。
代表的な寄生虫
普段目にする魚には、どのような寄生虫が見られるでしょうか。
先ほど説明したように寄生虫は大きく外部寄生虫と内部寄生虫にの二つに分けられます。
前者は釣りあげて魚の体を見ると見つけられる場合もありますが、後者の場合は調理の段階で初めて気づくことが多いですね。
外部寄生虫として、よく見られるのが節足動物のワラジムシ類でしょうか。海でサヨリを釣った際、エラに白っぽい虫が着いている事があります。これは「サヨリヤドリムシ」 という寄生虫です。ときには数匹が寄生して いることがあり、メスの虫は卵を持っていることもあります。
同様にマダイの口の中には、「タイノエ」と言う寄生虫が寄生していることがあります。口腔内にはエサとなる生物や水が頻繁に出入りする場所であるため、タイノエは足を口腔壁に差し込んで付着しています。
また、エビにも「エビノコバン」と言うワラジムシ類が付着していることがあります。これらは目立ちやすくいかにも寄生虫らしい形をしていますから、嫌がる釣り人も多いかもしれませんがこれらは毒はなくそれらの魚が最終宿主であり人間に寄生して害を及ぼすわけではないので、万が一食べてしまっても問題ありません。
人体に害を及ぼす寄生虫
問題になるのは、人が最終宿主でない寄生虫を何かの拍子に体内に入れてしまった場合でしょう。これは目で確認しにくい内部寄生虫が多く、ほとんどが寄生されている魚を生で食べたときに体内に侵入してしまいます。
有名なものといえば、サバやスルメイカなどに寄生している「 アニサキス」でしょうか。 アニサキスは本来はミンククジラやイルカなどに寄生している線虫の1種です。クジラなどの消化器官に寄生した成虫は、そこで卵を産み、クジラのフンとともに海の中へ排出されます。卵から孵った幼虫は、まずオキアミに寄生しそれをサバなどの魚やスルメイカなどの軟体動物が食べて、体内で幼虫から成虫へと成長します。
多くのミンククジラの胃の中には、大量のアニサキスの成虫が生息していることがわかっていますが、ミンククジラにとってはこれといった害があるわけではありません。
しかし、人間に寄生してしまった場合は別です。本来の最終宿主でないですからね。生のサバ食べての人の胃や腸にアニサキスが入ったときには、寄生虫にとっては生活に適さない環境となっています。そこでアニサキスがクジラに寄生した時と同じように人の胃の壁面に頭部を差し込むことで激しい腹痛を感じてしまいます。 よくあるアニサキス症ですね。
このアニサキス症になった場合には、胃カメラを飲んで寄生虫を見つけて取り出すことになります。
多くの場合、アニサキスは魚の内臓に寄生しています。簡単な酢締めではアニサキスは死亡しません。 また「酒を飲めばアルコールで分解されるから大丈夫」などと言う説もありますが、焼酎にアニサキスをつけて5分ほど置いてみた実験では、アニサキスは弱るそぶりがなく常に動き続けて生きていました。
そのため、アルコールで死滅できる希望は薄いですね。
では、どうしたらいいのですか?
鯖の刺身やシメサバで食べる場合、 釣り上げたらすぐに内臓を取り出すことが理想です。持って帰って調理する際は、身と内蔵をいち早く分けて処理し、まな板などにアニサキスがいないことを慎重に確認することをお勧めします。
川魚の寄生虫
「 川魚を生で食べるな」 と言われることがあります。
これは淡水魚が条虫や吸虫などの中間宿主や終宿主であることが多いからです。
例えば、遡河性のサケ・マス魚類、「 日本海裂頭条虫」 と言う条虫(サナダムシ) が帰省していることがあります。幼虫は魚の筋肉中にいることが多く、刺身で食べて人体内に取り入れてしまうことがあります。体内に入ったサナダムシは、腸内に寄生して栄養を取りながら、数メートルの長さまで成長します。
サナダムシについては、他の多くの魚の寄生虫とは違い、人間を終宿主としても利用できるため、寿命が長く体内で何年も生きていることもあります。自覚症状がない場合も多く、大体排便の際に白いキシメン状の条虫の一部が出てくることで気づくのですが、 条虫は 体の途中で切れても、いくつもの節状になっており、頭部が腸内に残っていれば、生殖が可能なので、死ぬ事はなくまた成長し続けます。
げげ、気持ち悪い
そんなサナダムシですが、一応、駆虫剤が存在していますので、
これを飲めば体内から排出することができます。
またアユやコイ科の仲間には、吸虫類が寄生していることがあります。これらは「マメタニシ」や「カワニナ」を第一中間宿主として発育し、第二中間宿主として、魚の皮下組織や筋肉に寄生しています。それらの魚を刺身などにして生で食べることで体内に寄生虫が入っていくのです。
基本的には生で食した後に腹痛や下痢などの症状が出て寄生されたと気づくことがあります。吸虫の中でも、サワガニを生で食べることにより寄生する「宮崎肺吸虫」は、 肺膜炎などの症状が出てしまう危険なものです。
淡水魚の寄生虫で、もう1種危険なものが顎口虫(がくこうちゅう)の仲間です。「有棘顎口虫」はライギョなどに、「剛棘顎口虫」は輸入したドジョウなどに寄生しており、ライギョの刺身やドジョウの踊り食い を食べることで体内に入ります。
人体に入った顎口虫は、 皮膚の下を移動し、 ミミズ腫れの症状を起こします。これが頭部や局部などに移動していた場合は危険でありますが、 一旦体に入った虫の発見は難しい場合もあります。
寄生虫の利用
このような被害がある一方で、最近では寄生虫の地域的な分布特性を利用し、サケなどの遡上性のある魚が、海で獲れたときに、どこで生まれた魚なのかを推定する研究利用も行われています。
例えば、アジア大陸と北米大陸とでは、淡水の寄生虫の種類や分布が違うため、同じ種類のサケで河川で生まれて海に下るまでに付着した寄生虫を調べることで、由来を判断できると言う考えに基づくものです。
寄生虫の対策
寄生虫は必ずしも魚や人に害があるものばかりではありません。魚にどのように寄生虫が付いていようと、魚に火を通せば食べることができます。
アニサキスの場合、− 20度で24時間、完全に冷凍すれば死ぬので、心配ならば一旦冷凍し、解凍後に刺身にすれば問題ありません。また、サケ・マス 魚類の筋肉中にいる「サナダムシ」 の幼虫の場合も−10度で完全に冷凍した後に「ルイベ」としての食感を楽しみながら食べるのも予防のための手段といえます。
まとめ
という事で、今回は寄生虫に関して解説していきました。
我々が釣っている魚の中にも多くの寄生虫がいますが、それをただ気持ち悪いと思うのか、面白いと思うのかは釣り人次第ですね。
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