今回は肝吸虫の中間宿主である「マメタニシ」について解説していきます。
フナが寄生されるために不可欠な生物であるこの貝ですが、一体どのような生態であり、
なぜ、肝吸虫がの流行が治ったのでしょうか。マメタニシの現状も見ていきましょう。
マメタニシ Parafossarulus manchouricus japonicus (Pilsbry)
マメタニシは、エゾタニシ科に属する貝類の一種で、日本や東アジアの淡水域に生息しています。
学名はParafossarulus manchouricus japonicusです。
マメタニシは、小型のタニシで、円錐形の殻を持ちその表面には小さな突起や縞模様があります。
一般的には、河川や湖、池などの淡水域に生息し、藻類やデトリタスを食べています。
【形 態】
成貝では殻長 10 mm に達するタニシ類(タニシ 科のヒメタニシなど)を小型にしたような形態。
殻は細長く、各螺層はやや膨れ、数条の強い螺肋があり、縫合部分はは深くくびれています。
殻質は薄く半透明ですが、老成個体で褐色から濃褐色の付着物で覆われ、螺肋も顕著ではなくなることが多いです。
蓋の部分ですが、他のタニシ類とは異なり、石灰質で厚く表面は中央部がかすかにくぼみ、内面と共に白色であるが、殻と同様に付着物で覆われて褐色の場合が多い。
【生態・分布】
世界および国内の分布としては、日本、朝鮮半島に分布。国内では北海道南部から九州に分布するとされている。琵琶湖では現在も健個体群が確認されますが、各地で減少傾向となっています。
これは移入種であるヒメマルマメタニシや外来種のスクミリンゴガイ(通称ジャンボタニシ)により生息地が追いやられているとされていますね。
【生息地の環境/生態的特性】
マメタニシは平野部の水田や用水路から丘陵地の溜め池などの流れのないエビモなどの水草の多い場所に生息していましたが、休耕田が湿地化しているような場所にも見られています。
田んぼ以外でも流れがほとんどなくて湧水のある水域の水草や礫によく見られたという記録がありますね。
淀川では著しく個体数が減少していることが報告されており、要因としては水質の悪化と河川改修 があげられている。また、岐阜県で調査した際にはマメタニシの個体群が減少とともにヒメマルマメタニシの移入個体群、外来種のスクミリンゴガイの個体群が増加しており、これらの個体群の生息も本種の減少要因である可能性も考えられています。
マメタニシの個体数を増やすためには、
生息環境である平野部の水田や用水路から丘陵地の溜め池などの流れのないエビモなどの水草の多い場所、流れがほとんどなくて湧水のある水域の水草や礫のある環境を保全することが必要ですね。
寄生虫学
マメタニシは肝吸虫の中間宿主となる生物です。
私の記事では何度も出ている肝吸虫ですが、哺乳類を終宿主とする寄生虫で現在でも東南アジアで最も多く見られます。
成虫は肝内胆管に寄生し、産んだ卵は胆汁中に排泄され、その寄生虫の卵は淡水中でマメタニシに捕食されて、タニシの消化管内で孵化して幼生となります。
そして魚の鱗の間から淡水魚(第二中間宿主)の筋肉内に進入します。
魚を食べた哺乳類の小腸から、胆管に入り、肝内胆管に寄生します。
肝臓を寄生されると「肝吸虫症」と言われる肝機能障害、肝硬変、胆管がんの原因となります。
駆除されずに流行の収束
マメタニシの個体数の多かった1950年代は、肝吸虫による肝臓ジストマが日本各地で流行していたこともあります。
以前、日本住血吸虫の記事を書いたこともありますが、その際には吸虫を媒介とさせるミヤリイガイが駆除の対象として河川で捕獲されたり、殺貝剤なるものを散布されたりもされていましたね。
一方で、マメタニシ自体はあくまでも中間的な宿主だったことで、駆除の対象とはならなかったようですね。
その後は、マメタニシ自体の個体数が減少したことやそもそも淡水魚の生食を控えることにより、
自然と肝吸虫の流行が治り、収束していきました。
駆除されたわけでもなく、純粋に生息環境の劣化で個体数が減ってしまったマメタニシさん、
かわいそうですね。
マメタニシと魯山人
日本の芸術家である北大路魯山人ですが、彼は昭和34年に肝不全のため亡くなりました。
この肝不全の原因は肝吸虫という寄生虫が原因とされています。
伝記小説などでは田螺(タニシ)を好んで食べたために、1959年昭和34年12月21日(満76歳で「肝臓ジストマ」と呼ばれた寄生虫)による肝硬変になったとされています。
「生煮えのタニシを好んで食べたため、
肝吸虫の重い感染を受けて肝硬変を起こして死んだ」
しかし、肝吸虫の中間宿主となる、小さなマメタニシは食用には適していないですし、美食家として知られている魯山人がそんな料理を出したり、自分で食べる可能性は低いのではないでしょうか。
そしてマルタニシやオオタニシのような一般に食用とされるタニシには肝吸虫が寄生していることはありません。
この肝吸虫は第1中間宿主であるマメタニシの体内で変態してスポロシスト幼生となり、
スポロシストが成長すると体内の多数の胚が発育して口と消化管を有するレジア幼生となり、
これがスポロシストの体外に脱出するため、別にこれをヒトが生で食べたところで、
終宿主への感染能力を持つメタセルカリアを有しないから感染源とはなりません。
このことからも魯山人の感染源は、マメタニシではないということが考えられます。
おそらくは二次宿主である、アユやフナ、タナゴなどの淡水魚の刺身を肝吸虫に寄生された個体で、鱗を完全に除去せずに表皮や淡水魚特有の柔らかい骨ごと食べたのではないでしょうか。
魯山人の好物の「鯉の洗い」や「鮎の背越し」などが原因とするのが妥当ではないでしょうか。
モツゴやホンモロコ、タナゴ類のような小型のコイ科魚類を流行地で生食するのが最も危険です。
フナやコイはモツゴやモロコなどに比べるとメタセルカリアの保虫率ははるかに低いですが、
刺身などにして生で食べる機会が多いため、こちらも用心しなければいけませんね。
まとめ
ということで、今回はマメタニシについて解説していきました。
魚に寄生する上で、中間宿主として使用されるマメタニシですが、個体数が減ったことにより肝吸虫の流行が収束しました。
嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちですね。
参考文献
「北小路魯山人と寄生虫」 メンクイレストラン キヨフミさんの日記
ジャンボタニシの見分け方と対策 山武農業事務所改良普及課
増田 修・内山りゅう, 2004. 日本産淡水産貝類図鑑 2汽水域を含む全国の淡水貝類. ピーシーズ
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