【養殖学】フナにおける養殖方法まとめ

水産学
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12月19日追記:給餌方法を追加しました。

フナ養殖について

 フナは繁殖力が強く、全国の至る所の水域に生息してあまりにも身近だったことやコイよりも大きくならず、成長速度も速くないので、養殖の対象魚にはならなかった。

  そのためコイの養魚池で混養された程度であった。だが、大阪でカワチブナという成長のよい個体が作り出されるとともに養殖種となることができ、大阪や奈良では積極的に養殖をされるようになったのだ。その後、サナギをはじめとする飼料の不足と飼料費の高騰により生産量が減少した。

  それでも、ゲームフィッシングとしてヘラブナ(カワチブナ)の需要がのび生産量が伸びてきている。今後もカワチブナ主体での養殖は伸びる可能性があるのだ。

養殖対象種としてのカワチブナ

 カワチブナの特徴は、原種であるゲンゴロウブナと比べて頭部が小さく、体高が著しく高くなっている。フナの中ではもっとも大きく、しかももっとも早く成長することと、鰓把数が多く腸が長い。またゲンゴロウブナは釣れないのに、カワチブナは馴れやすく人工飼料を摂食しやすいことも特徴の一つだろう。さらに野生種のフナは蓄養や輸送が困難であるが、カワチブナは長時間の蓄養も可能であり、長距離輸送に耐えることもできることも大きな特徴であるといえる。

 カワチブナの養殖には、国内水面漁業の重要漁種の中では唯一の植物プランクトン食摂食者であることから、植物性プランクトンを飼料として養殖を行っているところもあるが、給餌を行うことで成長を早め、丈夫で、釣り用に適する、肉量の多い、美味な魚を生産する方式をとっているところが多い。 

コイの習性との比較

一般にコイとフナとは、習性が非常に似ていると考えられ、同一に扱われている場合が多い。そしてこのことがフナの養殖の失敗の原因となることがある。しかし、両者の習性には対照的な点が多いので、フナを養殖する場合には、常に習性の差異を念頭に置くべきだろう。

  • コイの産卵は予定日に行いやすいが、フナは産卵を予想しにくい。
  • コイの孵化率は60%~70%の時が多く、50%以下の場合もあるが、フナの場合はだいたい80%~100%である。
  • コイの成長は成長が不揃いになりやすいが、フナの成長はだいたい揃って成長する。
  • コイは好環境下では、2年で2kgにも成長するが、フナは好環境下でも2年で400g程度で、普通は200g前後である。
  • コイは越冬中の体重変化は大きく減少するが、フナは減少が少ない。
    コイの成魚はプランクトンを摂らず、人工飼料のみでも十分成長するが、フナの場合は人工飼料も摂るが、終生プランクトンを多量に摂食する(そのため、フナは流水式養殖には不適切である。)
  • コイは酸素欠乏には弱いが、フナは酸素欠乏にたいしてはコイよりも強く   また、低温時には長時間の空中露出に耐えるほどである。
  • コイは栄養失調や消化器系統の障害によるものが多い。が、フナの場合には体表の損傷に起因するものが多い。
  • コイは人に馴れやすいが、フナは馴れにくい。

適地の選定 

用水

フナは温水性の淡水魚で、温暖な止水中に生息するものである。したがって普通は造地された止水池で飼育されているが、その種類と年齢によっては、稲田、ため池などを利用して飼育される場合もある。
用水は水温が適当で(最適温である20~28℃の期間が長いこと)水量が豊富に得られること。土地は南向きで日当たりがよく、勾配があって水源の位置が池よりも高く、排水が池よりも低く、注排水が自由にでき、しかも水中には十分酸素が含有され、pHが中性か弱アルカリ性(7.0~8.5くらい)で、有害なガスや有害な化学物質を含まないことが必要である。

土地

地質は一般の飼育池は池底が泥土である土池であることがほとんどであり、適地の条件としては重要な事項である。水持ちが悪く、漏水し、注水を頻繁に行うようでは、安定した水質が得られないので、稚魚の成長はもちろん成魚の飼育にもよくない。
しかし、すべてこれらの条件にかなう適地は簡単に選定できない。少なくとも適当な使用水のある、しかも管理のゆきとどく場所であることが大切である。
また、気温が温暖であれば成長が早く、寒冷地であれば遅いことはいうまでもない。

養殖における疾病対策

カワチブナに影響を与える病気としてはイカリムシ、チョウ、水生菌が普通であるが、広いため池で養成中の場合にはまず、これらの心配はない。まれにイカリムシやチョウの発生がみられるが、池の水量が多いために薬剤の費用がかさむので、これの対策はほとんど行われていないのが実情である。
 しかし、狭い養魚池や釣り堀ではティプレックスの散布を行っている。養魚経営上損害を与えるのは取り扱いが悪かったために粘液や鱗がなくなり損傷が原因でへい死することである。これにたいしても取り扱いに注意するだけで、今のところ薬剤は用いられない。

フナの輸送

 生産された魚や卵は、生きたままで需要先に運ばれて始めて生産の目的を達したということができる。しかも目的地に到着してもなお、輸送前と同じ活力を有していなければ商品としての価値がないので、古くから輸送については大変な苦心と苦労が払われてきた。カワチブナは魚体相互の摩擦による体表粘液の消失・鱗剥離が起こりやすいので、輸送に先立つ池からの取り上げには十分な注意が要求される。

 魚の輸送には稚魚までは別として、成魚は空輸による輸送などの特殊な場合とのぞいて、ポリエチレン袋に酸素とともに封入する方法は経済的な理由から今のところは用いられない。

 長距離輸送に際して一般に用いられる方法は水槽による自動車輸送である。ビニール製の大型水槽をトラックに積載し成魚ならば1.5~2.0トンを15~20時間を要して運んでいる。このばあい、酸素を放出しながら輸送する。

 10時間以内の輸送では、魚箱による水なし運送がよい。この方法では、魚体相互の摩擦による損傷は全くみられない、冬季気温のきわめて低い時には水なしの長距離輸送も可能である。20時間くらいの輸送では放養後、数十分以内で正位にもどり活力を回復する。へい死率はわずか3~5%である。この方法は水槽による輸送と比較して3~4倍も積むことができ、魚体の損傷がないという利点がある。この方法の要点は魚体が絶対に乾燥しない用にすることである。新聞紙は水をとり、箱内の湿度の保持に役立てている。

 長距離輸送する魚は特に丁寧に取り扱い、一旦きれいな水で蓄養するのがよい。池からあげて直接水槽に移す場合にも、しばらく網の中で泳がせておかないと水槽の水が非常に汚染され、魚が弱ったりへい死したりする。もっとも大事なことは輸送はどこの池でもかまわないということではなく、天然飼料に貧しく人工飼料も十分に与えていないカワチブナは、長距離移動に耐えられないということである。

 次に卵の輸送について述べてみると、新聞紙を敷いた木箱に、水を含ませた水苔と卵に付着した魚巣を交互に積み重ねるだけで十分である。これで箱内の湿度が90%前後には保たれる。用いる卵は産卵後数時間のものでも数十時間経過したものでも孵化率の影響はでない。また、箱内に100時間以上放置して水に戻して30分くらいで稚魚がでてくる程度であっても、孵化率は100%で、その後一ヶ月の飼育実験でもへい死はみられなかった。

養殖環境の管理

  カワチブナ養殖の主な場所であるため池の管理としては、まず、植物プランクトンの繁殖維持であろう。主飼料となる植物プランクトンはその池の栄養塩類の過多によるものなので、自然に存在する栄養塩類の少ない場合には、施肥をしてこれの増加をはからねばならない。
 
  しかし、この植物プランクトンの繁殖を妨げるのに種々の水生高等植物がある。これらは植物プランクトンと同じく栄養塩類を求めるので、植物間での競争が生じまた、水面に繁殖する藻類の場合には光合成も防がれてしまうため、植物プランクトンが減少する要因となる。ヨシ・アシは水辺の浅い場所に限定されるので害は少ない。

  クロモ・キンギョモなどの沈水植物が池底に繁茂すると、水面に達することもあり、植物プランクトンの数を著しく減少させる。ヒシは春先に富栄養の池に繁殖する。秋には枯れるが魚の取り上げ時に枯れた茎が網に掛かって水通しを悪くしたり、魚の選別を労するので、取り除くことが望ましい。

 また池は古くなればなるほど底泥が多くなるし、養魚が行われておればこれの堆積は急速に促進される。泥は有機物が多く水質の悪化を引き起こすので、まとめて排除しなけてばならない。排水の最終段階で泥樋を抜いて排水につれて集まる浮泥を出す。この後、石灰を散布して酸性化した泥の中和を行うとともに取り残した雑魚を死滅させることも必要である。

 富栄養のため池では、春季水温の上昇につれ、池の底に堆積した有機物が分解して池の底に接する水が無酸素となり、魚の生息範囲を狭くしている。また、栄養塩類は底層に多いのに成層が形成されるので、生産に役立つことがない。このような低層水の無酸素状態をなくして酸素が供給されるようにし、栄養塩類を表層に運びあげて生産に関与させるためには、積極的に水の垂直混合をはからなければなれない。

給餌方法

粉末飼料の給餌 

 粉末の餌から除々に置き餌に切り替えていく。配合飼料を水で練って、固まりにして田の周囲に置く。

  そのうちに稚魚が餌に集まるようになる。置き餌は早朝と昼前の2回行い、餌の残り具合で量を加減する。成長の様子を見てフナが食べるようであれば、ペレット型の配合飼料を、一握りずつの置き餌とする方法でもかまわない。

 また、肥料や農薬散布時に使う動力散粒器でペレットを投餌する方法も一部の地域で行われている。

夏の給餌

 水温が高くなる7~8月は夜に酸素不足になりやすいため、満腹状態で夕方を迎えるのは危険である。高水温期の給餌は午前中1回に留める。

計画的な給餌

 配合飼料だと、魚病の発生や逃出等が無い場合は、秋までの総給餌量がほぼフナの生産量になる。

  10アール当たりの平均的な生産量は100~200kgなので、毎日の給餌量を記録しながら年間を通してみて適当量となるように計画を立つ。

フナの取り扱い

 カワチブナは体表粘液の消失や鱗の剥離がおこりやすく、このような魚は歩減りのもととなるので、取り扱いに注意が肝要である。

 まず、取り揚げの際網を曳いて最後に密にまとめたとき、魚が動けない程度に網を絞ってしまう。(このとき、粘液がとれてガサガサして滑らかさがなくなっている個体はへい死するので取り除くとよい)これは、取揚魚が浮泥のまいあがった水の中で長く放置された時や、魚体が不揃いの時、ことに成魚と種苗が混獲されたときに損傷を受ける魚が多くなるので、手早く清水中に移すとか、最初に目合いの大きい網で大型魚を取り揚げてしまうことが肝要である。一般に取り揚げには低水温時に行う方が体表の損傷も少ないので、夏期に取り揚げる場合には日の出までの早朝に済まさなければならない。

 選別するときの注意としては絶対に乾燥させたり凍り付かせたりしないことで、したがって寒気の厳しい日には取り揚げをしない方がよい。使用する容器に水を入れておけばこのような心配がないが、魚体が損傷を受けるのと効率が上がらないとで水は使われない。

このほか地面に落ちて泥の付いた魚は決して容器に入れないことで、必ず元の曳き網なり畜用場所にかえさなければならない。また、魚に収容した容器を積み重ねて蓋をするか、上部になる底面が泥で汚れていないかを確かめる。

 畜養はできるだけ網生け簀はさけるべきで、やむを得ない場合には必ず網地の底が池底に十分についているようにしなければならない。普通に用いられるのは、内部が滑らかに仕上げた木製の生け簀であり、1日に100Kgを畜養でき、夏期でも40~50kgは可能である。この生け簀を使用する場合、万が一の鼻揚げを考えて上部をわずかに水面に出しておくとよい。

カワチブナ養殖の今後の問題点

フナの実験の材料としては多く使われてきたが、養殖そのものの研究は明治の終わりから大正の初期にかけての滋賀県水産試験場のゲンゴロウブナの業績があるにすぎない。最近、大阪府淡水魚試験場においてもカワチブナの本格的な養殖試験に着手しているが、不明な点があまりにも多い。

 そこで養殖試験と併行してカワチブナの基礎的研究を始めており、形態学的・育種学的研究からさらに優良な品種をつくりだし、形態的な研究から好適な飼育環境・飼料の共存関係・摂餌量などを正しく把握し、生理学的な特徴から輸送等魚の取り扱い方法を改良するする事を目標として、カワチブナの特徴を明確に示そうとしている。このような基礎的な研究からのみ優秀な品種を使った正しい養殖方法が確立されるだろう。

 また、カワチブナは無給餌での単位面積当たりの生産量では、我が国の在来種の中では最高の魚種であり、施設などにより天然飼料を増加させればかなりの増収が期待でき、しかも特別な施設を要せずにため池などの自然水域を利用でき、専門業者でなくても用意に飼育でき大した手数を要しないことから、わが国内水面漁業の飛躍的発層の唯一にない手といっても過言ではない。

このことから施肥による天然飼料のみに依存してどこまで生産が可能であるか、給餌方式を併用すれば最大生産量は如何程であるか、また、最適環境への改善方法などの究明すべき重要な問題は多い。食用とともに遊魚の対象としても、将来ますます需要の伸びの見込めるカワチブナについては、もっと真剣に考えねばならないと思われる。

混養魚について

混養魚

 混養は養成主体の魚の生産を妨げない限度に他の魚種を放ち飼料効率を高めて、池全体の生産量の増大をせしめる事である。

  この意味において、プランクトン食のであるフナとしても、混養魚としても適している。

混用魚種

 フナを飼育する場合、コイとモロコを必ずと言っていいほど混養している。これはフナが上、中層に生息して植物性プランクトンを主食にし、コイは底層に生息して底生動物を摂食し、モロコは上層を遊泳して動物プランクトンをとるので、池の生産力を合理的に活用し得る為でもある。

  人工餌を給仕する場合でも、コイが残した微細な餌の粉末をフナやモロコが食い尽くすので、餌の効率を高めることができるからでもある。モロコの場合は親魚を放養する。

 農薬が流入するおそれのない池で海釣り用の餌として重要の多いスジエビの親を放して産卵をせしめて、これを増殖生産している。

 近年注目されている魚種としては、外来帰化種であり、水生植物を摂食するソウギョである。コクレン、ハクレンといったレンギョはフナと同じく植物性プランクトンを摂る傾向が強く、摂餌も旺盛である。そのため、競合してフナの生育を阻害するので、その混養は避けた方がいい。

コメント

  1. 治道北部土地改良区理事長    (有限会社とぐちファーム) 東口義巳 より:

    私は大和郡山市白土町606に住み農業を営んでおります。
    地元ではため池が3つあり、今年から池を養魚に借りたいという業者が尋ねてきました。
    過去には養魚池として貸していた事もあるのですが池の堤や池床が傷むと言うことで取りやめたのですが
    養魚池は溜池を痛めるものでしょうか、?池の維持管理費も高くつきますので。

    教えて頂くとありがたいです

    • あおいふな siancarp より:

      こんばんは、コメントありがとうございます。
      養魚を行うことで、魚の糞や残餌が池床に蓄積などは考えられますので、
      完全に影響が出ないというわけではないかとは思いますが、
      養魚池を行うことにより溜池が痛むという話は聞いたことがなかったですね。
      ご参考までになれば幸いです。